組み手
「俺は、毎日の鍛錬をしていますので」
そういいながらグイグイと体を伸ばしている彼に見とれつつ。
私も彼の様に準備運動をこなそうとした。
だが、本ばかり読んでいる私にリチャードさんの動きは真似できなかった。
そうして、準備運動も終わり周囲はどこか和やかなムードで、それでいて適当な距離を保ちながら組み手が始められていた。
周囲の雰囲気はどこか緊張を伴っており。
それは、私の体にも影響を及ぼした。
これじゃあ、せっかくの準備運動を台無しだ。
そんな中、リチャードさんと組み手を始めようとしていると、リチャードさんは黙って杖道における基本の構えを取り始めた。
その姿はまるで体の中心に太い鉄芯でも刺さっているかのように安定感があり、それでいて微動だにしていない様に見えた。
準備運動で軽やかに動いていた時とは対照的な様子。
その様子にさらに緊張感が増した。
だが、それを少しでも和らげようと、彼を真似するように私も構えてみることにした。
すると、リチャードさんが口を開いた。
「大角さん、もう少し腰を落としてみてください」
「え、はいっ」
腰を下げると太ももに負荷がかかり、プルプルと震え始めた。
思わず顔がゆがんでしまうほどの体制に耐えた。
すると、リチャードさんがさらに腰を下げる様に言ってきた。
私はその言葉通りに腰を少し下げた。
すると、彼は「いいですね」と抑揚のない言葉で私を励ましてくれた。
しかし、私は体制を保つのに精一杯だった。
すると、リチャードさんが声を上げた。
「では、俺が攻撃側となって突きを仕掛けますから、大角さんは防御側として突きをいなしてください」
「えっ、あっ、はい」
確かにその言葉が聞こえているような気がした。
だが、私の気持ちは下半身に集中していた。
そうして、太ももにかかる負荷に耐えていると、目の前の微動だにしないリチャードさんがわずかに動いた様子を見せた。
すると、彼の持っている杖があっという間に私の眼先にまで近づいてくるのを感じた。
距離感を錯覚しているような感覚の中。
私はその衝撃に足の力がスッと抜けてしりもちをついてしまった。
「ひ、ひぃっ」
情けない声を上げながらお尻の痛みに耐えていると、リチャードさんが声をかけてきた。
「大丈夫ですか大角さん?」
「だ、大丈夫です」
「そうですか、しかし避けるのが上手ですね大角さん、脱力感のある理想的なよけ方でした。お見事です」
リチャードさんはここでようやく少し嬉しそうに微笑んだ。
私にしてみれば攻撃を仕掛けられて腰を抜かしただけだ。
でも、ほめられるのは嬉しくて思わずにやけてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「ですが、今は組み手ですのでできるだけ俺の杖の軌道をそらす感覚を覚えてください」
「は、はい」
私は立ち上がって教えてもらった通りの構えを取り直した。
すると、リチャードさんが「きれいな構えですよ」とほめてくれた。
その言葉に少しだけ嬉しくなった。
だが、体にかかる負担は大きい。
その状態で彼の杖の軌道を図りながら杖をいなすというのは。
私にとってかなり難易度の高いものに思えた。
「じゃあ、もう一度行きますよ」
リチャードさんは先ほど同様に距離感を失うかのような突きをした。
私は何とかして杖先の距離感をつかみながらその攻撃に対応しようとしたのだが、うまくいなすことができず、私の眉間近くにリチャードさんの杖先が到達して静止していた。
「あっ、あっ・・・・・」
私はまるで眉間を撃ち抜かれたかのような感覚に陥った。
そして、そのままその場で座り込んでしまった。
すると、座り込む私にリチャードさんは手を差し伸べてきてくれた。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません」
リチャードさんの手を借りて立ち上がると、彼は再び私から距離をとって構えなおした。
どうやら彼はまだまだ私と訓練してくれるらしい。
私は、彼の意欲に負けないように今度子度はうまくいなして見せようと意気込み、再び構えなおそうとしていると、それを遮るかのように声を聞こえてきた。




