梨のタルト
「あの、アルバ様っ」
私の呼びかけにわずかに驚いた様子を見せたアルバ様。
彼は、どこかそっぽを向きながら「なんだ」と返事をしてくれた。
「本当にありがとうございました、それから、色々とわがままを言って申し訳ありませんでした」
「・・・・・・き、気にするな無事でよかった」
アルバ様はぎこちない笑顔を作りながら、優しい言葉を言った。
しかし、彼はその後口元をヒクヒクとさせていた。
それが、アルバ様が嘘をついている時の癖だという事に気づいた。
あれ、アルバ様は何をごまかしているのだろうか?
しかし、そんな疑問もつかの間、私は背後にいる師匠の存在に気づいた。
もしかすると、彼は師匠の前では良い格好をしたかったのかもしれない。
そう思うと、アルバ様のことが愛おしく思えてきた。
そんな事を思いながらわずかに口元を緩ませた。
すると、アルバ様はキッと私をにらみつけてきた。
「おい、何がおかしい?」
「い、いえ、なんでもありません」
「そうか、それよりお前、すぐにでもクアトロの所に行ってやったらどうだ、ずっと気になってたんだろう?」
「それはそうなのですが、この卵のことも気になってしまって」
「その卵は俺とリードさんで処理する事になった。だから、お前はあいつのところに行ってやれ」
アルバ様は強い口調で命令するかのように言ってきた。
確かに私は今すぐにでもペラさんに会いに行きたい。
しかし、その一歩を踏み出せず卵に気を取られていた。
なぜなら、私がペラさんに会いに行く事を恐れていたからだ。
私のせいで大切な方を傷つけてしまった。
そんな相手に言いたいどんな顔をしてどんな声をかければいいのか。
それが、私にはわからなかった。
もし会いに行って謝ったとしても。
ペラさんが私を許してくれるかどうかわからない。
もしかすると怒っているかもしれない。
ペラさんのことが大好きな周りの人たちが私を罵倒してくるかもしれない。
ありもしない妄想におびえるなんて、まるで私は小さな子どもだ。
自分自身が情けなくて悔しくなる。
だが、それでも私はペラさんに会いに行かなければならない。
「そ、そうですね・・・・・・」
疲れなのか不安なのか思わず声が震えて出た。
「それから、見舞いに行くなら土産を忘れるなよ、あいつは【梨のお菓子】が大好物だからな」
「え、そうなのですね」
「昔っから仮病をつかっては、病室で元気に見舞い品を待つとんでもない奴だからな、だが、そいつをもってけばお前の事も許してくれるだろう」
アルバ様はそう言ってポケットから銀色のコインを手渡してきた。
それは、初めてベリル屋敷の自室で荷解きをしている際。
雄才様の贈り物の中にコインとそっくりだった。
「こ、これは?」
「【魔法界の通貨】だ、それくらい知っているだろう?」
ここでようやくあのコインが通貨であることを理解した
「そ、そうだったのですね」
「そうだ、そいつでどこかの売店でお菓子を買っていく事だな」
「いえ、しかしアルバ様からお金をいただくなんて事は」
「いいから行けっ、それから様をつけて呼ぶなって言ってるだろ」
そういうとアルバ様は私の背後に回って背中を押してきた。
いきなりの行為に思わず驚いた。
だが、アルバ様に背中を押された私は、ペラさんの所に向かうことにした。




