魔除けの芋
アルバ様の提案にドキドキしながらも、私には心配事があった。
それは、私の【ナギ】という呪文の持続時間が分からないという事だ。
それを考慮すると、すぐさまこの植物エリアから抜け出すべきだ。
そうして、私は卵を再び背負い直してアルバ様と共にこの場所から離れた。
草木をわけて歩くことしばらく。
ちょうど舗装された道にたどり着くことができた。
周囲にはもう刺々しい植物はいない。
その様子がわかった瞬間、アルバ様は私から手を離した。
その様子に、なんだかさみしい気分にはなった。
だが、今はこの卵を早く大烏の巣に持っていかなければならない。
そんな決意とともにあたりを見渡した。
すると、ちょうど立て看板を見つけた。
それは大烏への巣までの道を示す看板であり。
私たちはその看板が指し示す道へと歩みを進めた。
薄暗い道のりを進む中、さっきまでのアルバ様の手の感触が恋しくなった。
だが、そんな甘えは許されず言葉にする勇気もない。
なんて事を思っていると、前を歩くアルバ様が私の前に手をだした。
そして、彼は近くにあった立て看板のもとへと向かった。
こういう時、彼の後に続けばよいのか。
それともここでじっとしていた方がいいのか。
その二択に迫られたが、何度も怒鳴られた経験から、待つことに決めた。
その方がアルバ様の機嫌を損なわずに済むだろう。
私は、わずかに休憩を取りながら卵を背負いなおした。
すると、アルバ様が私を呼んだ。
私は呼ばれるがまま彼のもとへと向かった。
すると、そこには【芋】と書かれた看板と農園のようなものがあった。
「【魔除けの芋】だ、こいつはいい」
「魔除けの芋ですか?」
「あぁ、こいつを掘ってあいつに食わせてやる、お前も手伝え、あの大きさじゃちょっとやそっとの芋じゃ足らないだろうからな」
突然の提案にアルバ様は不敵な笑みを浮かべていた。
するとアルバ様はローブを脱いで服の袖をたくし上げた。
そして、農園に入ってがむしゃらに土を掘り返し始めた。
その様子に私もすぐに卵を下ろして芋堀りの手伝いに向かった。
フカフカとした土壌から芋を掘り起こした。
そして、土にまみれになりながら一つの場所に芋を集めた。
すると、いつの間にかアルバ様が多くの枯れ木や枯葉を集めていた。
「しかし、全くもって理解できない場所だな、月光くらいしかないってのに新緑から枯葉までそろってやがる」
言われてみれば確かにそうだ。
「もしかすると今が夜なだけで、日中もあるのではないでしょうか?」
そんな事をつぶやいてみると、アルバ様は天を見上げた。
そして、納得いかない様子で首を傾げた。
「そうかもな、だが今はこんな所で考察している暇はない、急ぐぞ」
そうして、アルバ様は枯葉や枯れ木の中に芋を投げ入れる始めた。
そして、口元を動かしながら呪文のような言葉を発した。
すると、集めた枯れ木が突然炎を噴き出した。
「よし、逃げるぞ」
アルバ様はそういうと一目散にこの場から逃げ出した。
意図はわからないが私も彼の後を追った。
すると、彼は少し離れた木陰に身を隠した。
私も遠慮気味に彼の近くで身を隠した。
すると、アルバ様が私をぐいっと引き寄せてきた。
「おい、もっとちゃんと隠れろっ」
「は、はいっ」
間近に感じるアルバ様の温度と感触。
それは今まで経験したことのない不思議なものだった。
そして、私はただ彼に身を任せることしかできなかった。
そうこうしながら煙を上げながら燃える焚火の様子を眺めた。
すると、煙の臭いと混じってかぐわしい香りが鼻をくすぐってきた。
「なんだか良い匂いがしてきました」
「あまり嗅ぐな、俺達には多少の耐性があるとはいえ決して良いものではないからな」
アルバ様は制服の袖口で鼻を覆いながらそう言った。
私も彼をまねて袖口で鼻を覆った。
どうやら芋に火が通り始めた様子らしい。
その燃え上がる焚火を眺めていると、上空から異様な気配を感じた。
それは紛れもなく大烏の鳴き声と羽音によるもの。
それが近づいてくると共に私とアルバ様はより一層身を縮めた。
上空には明らかに大烏と思われる鳥類の影が旋回している。
そして、煙に誘われるようにその影は降りてきた。
すさまじい風を巻き起こしながら地上に降り立った大烏。
周囲をくまなく警戒した様子を見せると一目散に芋が入った焚火のもとへ。
ちょうど下火になりつつあった焚火。
大烏は足を使いながらその火を散らしていた。
火の粉が舞い、徐々に下火になっていく。
それは最終的に灰と煙がモクモクと巻き上がるだけのものとなった。
そうなると大烏は待ちきれんとばかりに灰の中にくちばしを突っ込んだ。
そして、目当ての【魔除けの芋】を探し始めた。
すると大烏は灰の中から芋を発見した。
そして、ご機嫌な様子でバクバクと芋をむさぼりはじめた。
鳥類特有の飲み込む食事風景。
それは、人間からすると非常に奇怪に見えた。
しかし次々と胃袋の中に食べ物を収めていく姿はどこか気持ちが良かった。
すると、そんな大烏は食事を続けると共に徐々におかしくなり始めた。
大烏はフラフラとバランスを崩す様子を見せ始めたのだ。
そして、まさしく千鳥足であたりを徘徊し始めた。
ドスドスと、まるで恐竜でも見ている気分だった。
だが、動きだけ見ればとても可愛いく見えた。
まるで酔っぱらっているかのような様子。
それを見ていると、アルバ様が動き始めた。
「よし、行くぞ」
「え、はいっ!!」
私たちは大烏の背後を静かに、そして素早く走り抜けた。




