例外
帰り際、女神像から這い出てきた私は、ふと、思ったことがあった。
「あの、師匠?」
慣れない言葉を口にしながらリードさんを見つめた。
すると、彼は優しい笑顔で私を見つめ返してきた。
「なんだ弟子よ?」
「あの、ふと思ったことなんですが、このアザミの上を飛び越えることはできないんですか?」
「おぉ、良い質問だ弟子よ」
私が師匠と呼び、師匠が弟子と呼ぶ関係に少しだけ心が浮ついた。
「私、空を飛べる魔法や高くジャンプする魔法にとても興味あります」
人間なら誰しも空を飛んでみたいと考えたことがあるだろう。
そして、私もよく空を見上げては鳥に憧れたものだ。
「確かに、そうした魔法はあるし君たち新入生はいずれ学ぶ事になるだろう」
師匠は少し微笑みながらどこか言い淀んだ。
そして、唐突に私の方を向くと右手の人差し指を天に向かって立てた。
その様子に思わず空を見上げてみた。
しかし、そこには青空と雲が漂うだけだった。
すると、師匠は「違うちがう」とつぶやき、私は再び彼に視線を戻した。
「エルメラロード魔法学校の七不思議その一、ベリル屋敷の女神像周辺では魔法が使えない」
「え、ですが先ほど【ナギ】という呪文を使っていたのでは?」
突然に七不思議を教えられた私はあっけにとられた。
すかさず先ほど教えてもらった魔法の言葉を思い出して口に出した。
すると師匠は慌てた様子を見せた。
「おっとと、言い忘れていたけどその呪文は絶対に口外しちゃだめだ。文字に残すのもダメ、これはトップシークレットだ」
「えっ、すみませんっ」
「いやいや、わかってくれればいいんだ。でも覚えていてほしい、この呪文は本当に限られた者にしか伝わらない口伝だと教わった。だからそれを守ってもらいたい」
「は、はい」
「ありがとう」
「ですが、そのような貴重な呪文をどうして私に?」
「何度も言うが君は例外だ、君にそれを自覚しろとは言わないが俺はそうだと聞かされているし、今日ではっきりと確信した」
「そんな、私なんて・・・・・・」
あまりうれしくはない確信だったが、師匠は嬉しそうにしていた。
「それで質問に戻るが、さっきの呪文は俺たちが普段使ったり習ったりする魔法とは明らかに違うという事だ。
それこそ、人それぞれに属性があるようにこの呪文はどこか例外的な呪文なのかもしれないという事だ」
「例外的な呪文?」
「あまりにも異質で謎めいた呪文だ、魔法界にはまだまだ不思議なことが隠れているのかもしれないということだ。
いや、あるいは新たに湧いて出てきているのかもしれないという仮説も俺の中にはある」
なんだかとてもワクワクとした様子の師匠。
彼は、今にも走り出してしまいそうなほど体を揺らしていた。




