ジメジメとした空気
「ねぇ、答えてくれないと分からないわよ、悪名高きクアトロ一族のご令嬢さん」
「価値ならあるわ」
ペラさんの返事に私はドキリとした。
「あらぁ、流石はクアトロ一族。その化け物に一体どんな利用価値があるっていうの、教えてくれる?」
どことなく声が上ずるワーテリオン。
その様子はまるで子どものようにウキウキワクワクとした様子に見えた。
しかし、対照的に落ち着いた様子のペラさんが口を開いた。
「愛でるのよ」
「・・・・・・はぁ?」
ペラさんから出て言葉に私は一瞬戸惑った。
すると、視界の端にいたワーテリオンも同じ様子を見せていた。
その様子はとても新鮮だった。
それは、いつもいけ好かない彼女に一杯食わせてやったかの様な。
普段のうっ憤が晴らされていく爽快な気持ちになった。
「見てみなさいここにいるカイアを、この捨てられた子犬の様に怯え、けれど無垢な赤子のように自由で愛らしい姿を。こんなの愛でるしかないでしょう?」
「な、何を言っているのよあなたっ」
ワーテリオンは相変わらず動揺した様子だ。
そして、ペラさんは私をさらに抱き寄せると、頭を撫でてきた。
まさに愛でるという言葉を体現する彼女の行為。
それに私はただ身を任せる事しかできなかった。
「カイアはこんなにも可愛い、私はこの子の傍にいたいのよ」
「な、何を言い出すかと思えば、なんて気持ちの悪い事を。あなたの一族がヤバいって話は聞いていたけど、こんなにヤバい奴だとは思わなかったわ」
ワーテリオンはどこかおびえた様子で口元を手で押さえた。
そして、一目散に周囲の取り巻きと共に私たちの元から去っていった。
しかし、何か思い出したかのように戻って来た。
そして、ペラさんを指差しながら口を開いた。
「言っておくけど、ここは私が選ぶ高貴な属性よ、あなた達のような汚らわしい存在は来ないように」
そうして、私達の行動に釘を指す様な言葉を残した。
その後、ワーテリオンは今度こそこの場を去っていった。
そんな背中を見つめていると、ふと背後から声が聞こえてきた。
「おいお前ら、これは何の騒ぎだ?」
すぐに振り返ると、そこには険しい顔をしたアルバ様とモモチがいた。
「あら二人とも、見学はどうだった?」
「ここは湿気が多くてカビ臭いからダメだ、あと、辛気臭い奴らが俺の事をじろじろ見てきて不快だ」
アルバ様の言葉にモモチが肘で小突きながら口を開いた。
「アルバ、お前本当モテるよなぁ、卒業する頃には子どもが出来ててもおかしかないな」
「おいっ、そのふざけた口を閉じろモモチ」
「へへっ、冗談のつもりはねぇよ、みんなお前に惹かれてる」
アルバ様は明らかに拒否反応を示していた。
そして、今すぐにでも立ち去りたそうに体を揺らしていた。
「まぁ、アルバは有名人だものね」
「そんな事よりお前らは何をやってた、変な注目が集まってたぞ」
あたりを見渡すといつの間にかギャラリーが集まってきていた。
そして、それらは私たちに注目していた。
しかし、そんな騒ぎも徐々に散っていっていた。
「何ってカイアを愛でていたのよ、見てわからない?」
ペラさんは私の頭をより一層撫でてきた。
そんな様子にアルバ様の眉間のしわが深くなった気がした。
「愛でる?そいつはお前のペットじゃないんだぞ?」
「わかってるわよ、ちょっと面倒事があったからこうやって場を凌いでいたのよ」
そう言ってペラさんは私から離れた。
それが少しだけ寂しかった。
しかし、いつまでもこんな姿を晒すのはいけないと思った。
そうして、身だしなみを治してしっかりと自分の足で立った。
すると、アルバ様がペラさんに歩み寄りながら口を開いた。
「クアトロ、お前は相変わらず狂ってるな、完全にどうかしているぞ」
「知ってるわ、それよりも次の属性を見に行きましょう。ここはどうもジメジメしていて気分が悪いわ」
私とは対照的な二人は、水属性に対してそろって低評価を下していた。
個人的には居心地の良い場所なだけにすこし疎外感を感じた。
しかし、あのワーテリオンの事を思うと、この場所を選べそうになかった。




