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禁忌を犯せし魔女見習いは、愛しの王子と幸せになりたい。  作者: しゃこじろー


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異端の証明

「ちょ、ちょっといいですか先生」

「はい、なんですかリーさん」


「仮に先生のお話を信じるとして、金という属性が実在するのならば、それにはどのような特徴があるのですか?」

「例えるならそうですねぇ」


 そう言うと先生は辺りを見渡し、近くにあったスプーンに手を伸ばした。


「これは銀のスプーンです、食事をするときに用います」

「えぇ、そうですね」

「ではリーさん、このスプーンをグニャグニャにできますか?」


 先生の問いにワンさんは少し考えこんだ後、先生が持つスプーンを手に取った。


「それくらいは容易いですね」


 そう言うとジュンさんは近くにある空き皿にスプーンを置くと、そこ手をかざした。

 すると、皿の上にある銀のスプーンはみるみるうちにその姿をどろどろと変形させていき、ついには皿の上でスープのようにトロトロの液体へと姿を変えた。


 もはやそれはグニャグニャという表現からはかけ離れたものであるが、魔法を目の当たりにした私は感動で開いた口がふさがらなくなった。


「これでいいですか?」


 ジェーンさんは表情を変える事無く伝えると、先生はニコニコと笑っていた。


「では、この溶けた銀を球体へと変えてもらえますか?」

「・・・・・・え?」


 思いもよらぬことを言われて驚いたのか、ジェーンさんは動揺した様子でしばらく固まっていた。そして、ようやく動き出した彼女は垂れた髪の毛を耳にかけなおした後、ようやく口を開いた。


「ど、どういうことですか先生?」

「ですから、リーさんが溶かした銀スープを、綺麗な球体へと変えてもらえますか?」


「そ、そんな事・・・・・・」

「それから、その後にスプーンではなくフォークにしてもらえますか、丁度そこにあるフルーツを食べたいんですよ」


 アーモンド先生はニヤニヤとした顔でそう言った。


 その様子がまるで「出来るモノならやってみろ」とでも言わんばかりの挑発的とも思える様子であり、ジュンさんもその様子を察したかのように眉をひそめた。


「・・・・・・も、もちろん出来ます」


 ジェーンさんは少し口調を強めてそう言った。そして銀のスプーンだったものに手をかざそうとした。

 しかし、隣にいたリードさんがジェーンさんの腕をぎゅっと握りしめた。


「ちょっと、邪魔しないでリード」

「むきになるなジェニー、君の良くない所だ」


「今からこれをフォークにするだけじゃない、簡単よっ」

「これはそう簡単にできる事じゃない、先生は君をからかっているだけだ」

「うるさいっ、できるにきまってるでしょっ」


 ジェーンさんは大きな声でそう言い、私たちの周りは少しだけ緊迫感が漂う空気になった。

 二人は互いににらみ合う様に目線を合わせており、それはまるで今にも何か大変なことが起こってしまうそうなほどだった。


「落ち着けジェニー、せっかくの歓迎会を台無しにする気かっ!!」

 

 今度はリードさんが口調を強めてそう言った。その中に物騒な言葉が聞こえてきて驚いたが、ジェーンさんがその言葉にいち早く反応していた。


「・・・・・・わかってるから手を放して、リード」


 緊迫した空気の中、ようやく和やかなムードが訪れると、ジェーンさんは手を引いて落ち着きを取り戻した様子を見せながらアーモンド先生に話しかけた。


「随分と無茶ぶりをするものですねアーモンド先生、これには先生方だって苦労しますよね?」

「・・・・・・いやぁすみません、つい無茶ぶりをしてしまいましたね」


 アーモンド先生は頭を下げて謝罪した。しかしすぐに頭を上げてニコニコと笑った。


「ですが、その無茶ぶりを平気でやってのけるのが金という属性を持つ者の特別な力です。

 かつて存在した金を属性に持つ魔女はモノを自在に操ることのできる力を持っていたとされています。それは皆さんが必要とする【魔法石】との関連も深くあるとされています」


 純粋に初めて聞く単語に疑問を感じていると、まるで私の思考を読んでいるかのようにリードさんが口を開いた。


「魔法石っていうのは、より純度の高い魔法を扱う際に必要となるものさ、高学年になると必要になる、楽しみにしておくといい」


 簡単な説明に納得していると話は再び元に戻り、ジェーンさんが少し不満げな様子で口を開いた。


「では先生、金とは物質を自在に操れる能力とでもいうのですか?」

「えぇ、実際に魔法界にはそうでもしないと在り得ない遺物がたくさんありますからね。

 何より、私たち魔女にとって必要不可欠でもある魔法石は現在の魔法界において不透明な分野であり、どのような製造方法であるかすらもほとんどが謎に包まれています。

 現にジュンさんがつけておられるその魔法石の指輪もどのようにして作られているか知りませんよね」

「・・・・・・はい、恥ずかしながら」


 ジェーンさんは指につけられている赤い宝石がついた指輪を優しくさすり、悔しそうな表情をした。


「恥じる事はないジュン、俺だってついこの間までそんな疑問すら抱かなかなかった。この魔法石の力に魅了され、ただただ優越感に浸っていた愚か者の一人だ」

「・・・・・・あ、あのぉ」


 私は口をはさむのもおこがましい程に高度な会話に割り込むと、先生とリードさんとジェーンさんが一斉私を見つめてきた。


「どうかしましたかカイアさん」


 先生は優しく尋ねてきた。視線が集まり緊張するが、それでもこの好奇心は抑えられなかった。


「そんなにすごい属性を、才能のない私にその属性を与えられるなんておかしいと思うのですが」

「そんなことはありません、あなたにふさわしいと思いますよ」


 アーモンド先生は間髪入れずにそういった。


 何を思ってそんな事を言っているのかはわからなかったが、先生はとても自信に満ち溢れた表情をしており、リードさんもまたそんな様子だった。

 しかし、ジェーンさんは相変わらず納得のいっていない様子であり、どちらかといえば私もジェーンさんと同じ気持ちだった。


「では、先生は私のどのあたりがふさわしいと思うのでしょうか?」 

「いやいや、龍の涙を手懐けたんだ当たり前だろ?」


 リードさんは平然とそんな言葉を吐くと、アーモンド先生が少し焦った様子で「シーッ」と言った。その様子に気付いたリードさんは「ヤベッ」と言って自らの口を手でふさいだ。


「リード君、声が大きいですよっ」

「ふひまへんっ」


 リードさんはもう口にしたというのに今更口を両手でふさぎながらそう言った。そしてそんなリードさんとは裏腹にジェーンさんが大きな声を上げた。


「まさかっ、あの七不思議の内の一つを、彼女がやってのけた、とでもいうのですか?」


 ジェーンさんは驚いた様子でそう言うと、ゆっくりと私に目を向けてきた。その目はいつもの切れ長な目ではなくまん丸とかわいらしい目をしていた。


「いや、まぁジェニーなら話しても良かったけどタイミングが無くてさ、龍の涙については秘密で頼むよ」


 リードさんは自らの失態を悔いるかのように苦い顔しながらそう言った。


「証拠、証拠を見せて大角さん」

「え、えっと」


 興奮した様子のジュンさんは身を乗り出して迫ってきた。すると、そんな彼女を落ち着かせるかのようにアーモンド先生が話しかけてきた。


「カイアさん、カギは持っていますか?」

「え、はい」


 私は首にかけている金色のカギを取り出して見せた。キラキラと輝く金色のカギにその場にいた皆の視線が集まり、私は少し恥ずかしくなった。


「ではカイアさん、少しだけでいいのでチョチョイと形を変えて見せてくれませんか?」

「えっと・・・・・・はい」


 私は龍の涙のカギに何かの形になるように語り掛けようとしていると、丁度近くにあったハート形のクッキーが目に入り、そのハート形になるように語り掛けた。

 すると、カギの形をしていた龍の涙はグニャグニャとその形を変えてハートの形へと変貌した。


「え、えっと、これでいいでしょうか?」


 私は周囲の人々の反応を確かめようとしていると、アーモンド先生はニコニコと笑い、リードさんやジェーンさん、マロン先輩は目を丸くして口をぽかんと開けた状態で動かなかった。


 だが、リードさんとジェーンさんはすぐに怪訝そうな顔をし始めると、互いに顔を見合わせてヒソヒソと話し始めた。


「参ったなリード、どうやらとんでもない新入生が入って来たらしい」

「そうだ、こんな逸材を逃すのは我らベリル屋敷の同胞にとって大きな損害になる、彼女はここに来て正解だったんだ」


「しかしそういう事か、お前があのロイ家の天狗坊主やクアトロ一族に目もくれず、ただひたすら物思いにふけっていたのはこういう事だったんだな」

「そうとも、もちろん新入生には平等に接するつもりだが、彼女は特別というよりも例外だからね、今、彼女に目を向けずしていつ目を向けるんだい?」


 リードさんはニコニコと嬉しそうに笑い、ジェーンさんはやれやれと言った様子で首を横に振っていた。

 注目されることに慣れていない私にとって、この状況はとても息苦しいものとなっていたが、それでもそこまで居心地が悪いとは思わなかった。


 その後は、金という属性について後日詳しくするとのことで、この場はお開きとなった。


 しかし、私の様な存在に興味津々となった様子の頭領二人は私の生い立ちから今に至るまでの事をたくさん訊ねてきた。

 そんなこともあってか、歓迎会はあっという間に過ぎていき、いつの間にか自室のベッドの上で横たわっていた。


 火照る体と頭、これまでに感じたことのない高揚感に私は眠れずにいた。

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