禁忌
「ちょっとちょっと、突然どうしたっていうのよアルバ」
ペラさんは困惑した様子で歩み寄ってこようとすると、アルバ様がまるで近づくなとでもいうように彼女の方へ視線を向けた。
「お前は黙ってろ、これは俺とこいつの問題だっ」
「ねぇ、あなた達に何があったのかは知らないけれど、もう少し冷静に話し合ったらどうなの?」
「そもそも、お前はなんでついてきたっ」
「そんなの、あなたがすさまじい剣幕で部屋を飛び出していったからよ」
「お前に心配される筋合いはないっ」
誰も寄せ付けないかのような言葉遣い、そんな言葉を吐いた後にアルバ様は再び私に視線を戻してきた。
その瞳が、表情が、かつてのアルバ様とはかけ離れていただけに、新鮮さと恐怖が入り混じって頭の中がこんがらがった。
アルバ様はペラさんに「下がってろ」と告げると、ペラさんは申し訳なさそうに黙りこみ、後ずさった。
「そんな事よりもだ・・・・・・」
そう言うとアルバ様は私にさらに顔を近づけてきた。彼の吐息が伝わってきそうなほどに近づいてきた彼は私の耳元で小さくつぶやいた。
「お前、召喚魔法を使ったな?」
「・・・・・・え?」
まるで、私がさっきまで部屋で何をしていたのかを知っているかのような口ぶりであり、私はドキリとした。
それと同時に、先ほどスーが言っていた言葉を思い出した。
「いいから、はやく答えろっ」
「・・・・・・あの、アルバ様」
私はアルバ様からの質問に答えたかったのだが、恐怖に震える体と唇がそれを拒否していた。
すると、アルバ様はしばらく私の事をにらみつけた後、彼は私から顔を離して、相変わらず険しい顔つきをしながら口を開いた。
「・・・・・・いいか、二度とするなよ、わかったか」
まるで叱られているような状況の中、全身の力が抜けそうになりながら私は何度も頷いた。
すると、アルバ様はいまだ怒った様子で私から離れ、歩き去って行ってしまった。
その背中を見つめながら私は、ここに来て初めてのアルバ様との出会いがこんな形となった事にただただ呆然とすることしかできなかった。
そうしていると、自然と体の力が抜けてしまい私はその場で座り込んでしまった。すると、モモチとペラさんが私の元へと駆け寄ってきてくれた。
「ちょっと大丈夫カイア?」
ペラさんが私の体をさすりながらそんな言葉をかけてくれた。
「はい、なんとか」
「あなたたちの間に何があったのかは知らないけれど、何やら穏やかではなさそうね」
「はい」
「ねぇ、もしかしてだけどあなた、召喚魔法を使ったんじゃない?」
「そ、それは・・・・・・」
ペラさんによる唐突で核心を突いてくる言葉に私は返す言葉がなかった。
すると、モモチがゲラゲラと笑った。あまりにも奇妙な笑い声は夜に聞こえてきたら恐怖で布団から出られなくなりそうなほどであった。
「決まってんだろっ、絶対に召喚魔法を使ったんだよっ、なぁカイア」
嬉しそうに語るモモチに対して、ペラさんはあきれた様子でため息をついた。
「騒がしいわよモモチ、大体どうしてあなたまでここにいるの?」
「どうしてって、隣の部屋であれだけ騒がれたら、誰でも野次馬になるだろ」
「そりゃそうかもしれないけど、隙あらばアルバとカイアの間に割って入ろうとワクワクしていたでしょう?」
「せっかく俺が割って入ろうとしたのに、邪魔しに来たよなぁ、これだから優等生は嫌いなんだよ」
「悪いけど面倒ごとは嫌いなの、それに何事も穏便に済ますのが体に染みついているから仕方ないのよ」
「ふーん、まぁ、んな事よりもカイア」
モモチは嬉々と私に話しかけてきた。その様子はアルバ様とは対照的であり、この状況においてこれほどの陽気な振る舞いができるのは彼がとてつもなく不思議な人であるのに違いないのだろう。
「な、なんでしょうか?」
「この銀髪はもちろん知っていると思うけど、アルバは召喚魔法の事になるとムキになるところがある。
過去に何があったのかは知らねぇが、あの様子はその時のものとかなり酷似していたぜ」
「ちょっとモモチ、私は銀髪ではなくペラ・クアトロよ、さっきも自己紹介しましたでしょ?」
「ん、そうだったか?」
「そうよ、でも、モモチの言う通りアルバは召喚魔法の事になると人が変わったようになるわ、それこそさっきみたいにね」
「何度怒られたか数えきれねぇぜ、あいつこの事になると血相変えるからなぁ」
「えぇ、普段のアルバなら絶対に見せない姿よ、だから、つまりその・・・・・・」
二人はアルバ様の事をすごくわかっている様子だった。
それが何だか悔しいような、悲しいような気持ちでいっぱいになった。しかし、そんな事よりも私はアルバ様に無礼を働いてしまったことが辛くて仕方がなかった。
「カイア」
モモチが明るい口調で話しかけてきた。彼の顔はとても無邪気な子どもの様な笑顔であり、その顔に私は少し嫌気がさした。
「な、なんですか?」
「正直に言えよ、召喚魔法を使ったんだろ?」
「・・・・・・」
「そうじゃねぇとアルバが怒る理由がねぇよ、なぁ使ったんだろ、なぁなぁ?」
モモチはただひたすらに私の顔を見つめながらそう言ってきた。するとペラさんがモモチの間に割って入ってきてくれた。
「こら、あなたは少しデリカシーに欠けてるわ」
「でもよ、アルバがあんなに怒るのはいつも召喚魔法関連だ、そしてここには禁忌を犯せし魔女見習いがいる、間違いねぇだろ」
「そうかもしれないけど、だからと言って断定することはできないわ、そしてそれを追求する必要もありません」
「なんでだよ、魔法界において召喚魔法は禁忌だ、もし使っていたならカイアを通報しねーとな」
モモチの言葉にドキリとした、そんな言葉に思わずモモチを見つめると彼は相変わらず笑っていた。
「・・・・・・というのは建前でさ、もし召喚魔法を使っていたならぜひ俺に教えてほしいんだよ」
モモチは甘えた声でそう言った。彼の少年の様な彼の振る舞いはどこか新鮮で思わず笑いが込み上げてきそうになった。
「突然何を言い出すかと思えば、あなたは入学してから問題発言ばかりですね、もう何度呆れたらいいかわからないわ」
二人は私に対してそれほど嫌悪感を抱かず、まるで普通の魔女見習いとして接してくれているように見えた。
その様子に、これまでの辛い出来事と照らし合わせながら、今の光景がいかに素晴らしい景色かという事をかみしめていると、腰が抜けた私にペラさんが手を差し伸べてくれた。
「ほらカイア、もうすぐ夕食だから一緒に行きましょう、そこで色々と話を聞かせて頂戴?」
笑顔でそう語るペラさんはとても輝いているように見えた。
それは、かつて私がアルバ様に感じた様子と瓜二つであり、アルバ様にも引けを取らぬ輝かしい姿に思わず目を手で覆いたくなるほどだった。
けれど、それと同時にこの人もまた私が尊敬してやまない部類の人であることを確信した。
「あの、ペラさん」
「ん、どうかした?」
「ペラさんは私が禁忌を犯した魔女見習いであることをご存じなんですよね」
「えぇ、知っているわ、さっき挨拶しに来た時も言ったでしょ?」
「では、私を汚らわしいと思わないのですか?」
「汚らわしい?」
「はい」
「ふぅん、そうねぇ・・・・・・」
ペラさんは少し考えた素振りを見せた後、優しく微笑みかけてきた。
「本当に汚らわしいものに私はこの手を差し伸べないわ」
そう言うとペラさんは私の手を掴み、力強く引いて立ち上がらせてくれた。
「カイアは少しネガティブね、少しはポジティブになるかニュートラルに生きてみた方がいいんじゃない?」
「・・・・・・はい、心がけます」
「えぇ、じゃあさっそく夕食に行きましょう」
ペラさんはとても優しく強い人に見えた。
その強さに心惹かれながら、何やら不満がある様子のモモは、相変わらず私に召喚魔法について質問してきていた。
しかし、それもペラさんによってなだめられ、私たち三人は一緒に夕食を取りに行くことになった。




