プロローグ:過去の記憶
とある魔法学園のお話です。
少し涼しい春先の夜。水流の音がさらに体温を奪っていき、そこに浸るように夜桜の匂いが香ってくる。まるであの春の夜を思い出させるかのように。
自然に囲まれたここは朧夜ヶ丘魔法学園。全寮制男子限定、魔法学園。
世界は普通だ。だが、夜桜の下で光る魔法を見慣れているのは魔法使いだけだろう。
僕たち、魔法使いは「魔法学園」に通い、魔法について学ぶ。けど、一般人には知られてはいけないらしい。
僕は寒桜ユキ、今日からここの生徒だ。
今から入学式。鼓動が高鳴る。これが期待からなのか不安からなのかはわからない。けれど、僕は今、朧夜ヶ丘魔法学園にこの1歩を踏み出した。
入学式が始まる10分ほど前に席に着いたが結構人がいた。
クラスごとに座席が決まっており、前列にAクラス、次にBクラス、1番後ろに僕らCクラスの席が。落ちこぼれが座る特等席。魔法知識ゼロの僕にふさわしい場所だ。
A、Bクラスの人は気を紛らわせるために指先から小さな炎や静電気程度の雷を出している。魔法が不安定で、緊張や不安さが伺える。いいな。魔法が自由に使えて。
「……奪おうかな」
はっと我に返り、背筋が凍る。喉が熱くなる。ああ、また考えてる。
あの日のことを思い出す。
無差別に飛び散った鮮やかな血。
もう二度と鼓動が鳴らない身体。
誰かの嘲笑う声が耳の奥に張り付いている。うっ、気持ち悪い。脳が焼けるほど痛い。
あの時のことをまだ引き摺っているようだ。
そんな自分に嫌気がさしていると、誰かに肩を叩かれた。
「なぁ、お前、名前なんて言うんだ?」
隣に座っていた背の高い人が話しかけてきた。
「か、寒桜…ユキ」
「ユキか、いい名前だな!俺は芙蓉タイヨウ!タイヨウって気軽に呼んでくれ!」
明るく元気な人だ、緊張していた鼓動が少し和らいだ気がした。
この人と仲良くなりたいな。そう思った瞬間、
「静粛に」
校長らしき人がそう言い放つと、周りは一気に静まり、音が無くなった。背筋に寒気が走る。喉がひりつき、呼吸が苦しい。心臓がまるで誰かに握られているかのように痛く、冷たい。
「皆様、ご入学おめでとうございます。私は校長の天文リュウノスケと言います。今からあなた達は朧夜ヶ丘魔法学園の生徒です。生徒としての自覚を持ち、学園生活を送ってください。」
一言一言が脳に突き刺さる。まるで、言葉に魔法がかかっているように。
「明日からは本格的に魔法を学んでいきます。入学したからといって調子に乗らないように。」
校長が短い挨拶を済ますと一瞬で現実に戻された。音が聞こえ、身体の自由が効く。だが、まだ心臓の底は冷えていて、まだ誰かが握っているみたいだ。今までに感じたことの無いようなこの感覚。空気までも操れるこの人の能力が欲しい。この能力を使えばあの春の夜からの僕の願いが叶う。そう、叶えるんだ。これからの全てをかけて。
初めての創作小説です。いかがでしたか?楽しんで貰えたなら嬉しいです。




