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第六話 悟浄の大橋

 僕が率いる兵は十数人。御旗を掲げ、姫君の駕籠を護衛しながら都に入った。


 そして帝の御所へ向かう途中、鴨川に架かった悟浄ごじょうの大橋を渡ろうとした時、キジが、


「この橋を架ける時に、私のあるじの陰陽師は人柱にされたのです」


 と、言い、こう付け加える。


「ですが、近年になって、この橋には魔物が現れ、人を川に引きずり込み、殺すようになりました」


 その話を聞きいた僕は、魔物の出現を警戒し、兵に姫君の駕籠を厳重に守らせながら、慎重に橋を渡った。


 橋を渡りながら、キジは言葉を続ける。


「この橋の魔物は、もしかしたら、人柱となった主の霊が魔物と化したモノなのかもしれません」


 その話を聞きながら、僕は流れる川の水面を眺め、


「でも、なぜ近年になってから、百年前に人柱となった陰陽師様が魔物に?」


 と、疑問を口にする。その疑問にキジは、


「昨今の人民の心は乱れています。それに朝廷の官人は上から下まで私利私欲にまみれた奸物ばかりとなり、恐れ多いですが、帝も」


 そう答えた。キジの言いたいことは良くわかる。帝も今や欲望にまみれた暴君となっているのだ。


「そうだな、事実、僕たちが今、護衛している姫君は、元々は、竹取の造の妻であったのだから」


 それを帝が、姫君を側室に迎えるために離婚させたのだ。そして竹取の造は妻への未練と執着のために、


「魔物と化して巨大な鬼の姿となり、姫君を追って来て、真夜中の宿場町で僕たちを襲撃した」


 僕の話を聞いていたキジは、やや憤りを含んだ口調で、こう語る。


「都の安寧のために人柱となった主は、おそらく、今の都の乱れた世相に、激しい怒りを覚えているでしょう」


 確かに、人柱にされた陰陽師から見れば、堕落した現在の人々が許せないのも当然だろう。


「だが、しかし、人柱となられた陰陽師様も、魔物と化して人々を殺して何になる。それは陰陽師様が自ら、自身を貶める行為ではないか」


 僕はキジに向かって、そう言葉を発すると、鎧兜を着けたまま、太刀を抜き放って、橋の欄干の上に立った。


 それを見た、キジと山犬と姫君と兵は、驚いて、


「何をなさるのです!」


 と、同時に声をあげる。


「橋を渡って待っていろ。僕は直ぐに戻る」


 そう言ってから、僕は川へと飛び込んだ。


 バシャーン。


 川の底へと沈むと、そこには一匹の魔物の姿があった。その魔物は全身が深緑色で、首からドクロの首飾りをさげている。


 これが人柱となった陰陽師が、魔物と化した姿なのだろうか?


 深緑色の魔物は、突然、川底まで沈んで来た僕を見て驚いたのか、


「何奴だ!」


 と、怒鳴り、もりのような武器で攻撃してきた。


 ガチリ。


 鎧が、その銛の切っ先を受け止める。次の瞬間、僕は反撃の一撃を突いた。


 グサリッ。


 太刀の一突きで、魔物の胸を刺し貫く。


 グガァッ。


 魔物は短い断末魔の叫びをあげ、一撃で死んだようだ。その刹那、


「ありがとう、これで全てが成就する」


 と、魔物が謎の言葉を発して陰陽師の姿に戻り、


 キラキラと、神々しい光を纏いながら昇天した。


 僕は、それを見届けて、水面に浮き上がり、


「ぶっ、はあーっ」


 大きく息を吸い込んでから、岸に向かって泳ぐ。鎧兜を着たままの水練には苦労したが、なんとか岸まで辿り着いた。


「鎧兜のまま川に飛び込むなどと」 

「まったく、無茶をなさいますな」


 と、兵たちが僕の腕をつかみ、岸に引き上げる。


「陰陽師様は、ご成仏されたようだ」


 僕の言葉にキジは、安堵の表情を見せた。

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