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第四話 悪しき村人

 太陽が沈み夜の闇が訪れる頃、魔物と化した山犬は憎悪と怒りに満ちた声で語りだした。


「ならば教えてやろう。俺は幼い頃に母親からはぐれた山犬だった。衰弱して死にそうになっていた俺を、優しい女の子が拾って、育ててくれたのだ」


 そこまで話すと、山犬は一旦、僕から視線を外し、夜になりかけた空を見上げる。


「優しいのは女の子だけではなく、その父母も優しい人だった。その家族は貧しい粉挽きだったが、家族として迎えられた俺は幸せだった」


 山犬の話を聞きながら、僕は構えていた太刀を下げた。後方では、木の枝に止まったキジも黙って山犬の話を聞いている。


「それから数年の月日が流れた。女の子は美しく成長したが、ある日、村長のバカ息子が女の子を襲ったのだ」


 怒りに燃える山犬の眼がギラリと光った。その赤い目が宙を睨んでいる。


「俺はバカ息子に噛みついて女の子を守った。しかし、村長は村人に命じて俺を捕らえさせ、殺処分したんだ」


 冷たい風が吹くなかで、山犬は語り続けた。


「酷いのは、この後だ。俺が死んだ後、バカ息子は懲りずに再び女の子を襲い、無理矢理に犯した。それで女の子は自害したのだ」


 悲しい物語を語る山犬を、僕は直視できずに視線を地面に落とす。


「さらに女の子の両親も村八分にされ、失意のどん底で、二人とも流行病にかかって死んだ。村八分にされていたせいで薬が買えなかったんだよ」


 ここで山犬の感情が爆発した。


「あの村の奴らは最悪の人間だ。魔物以下の最低な奴らなんだ!」


 僕は下げた刀を鞘に納めてから、言葉を発する。


「だから、お前は魔物になって村を呪うのか」

「あたりまえだろう。奴らは呪われて当然だ」


 一歩、山犬に近づいて僕は語った。


「それで、怨んで呪って、村人を殺して、お前は、どうなる。確かに村人たちは酷いことをしたかもしれないが、罰を下すのは、お前の役目ではない」


 この僕の言葉に、山犬は牙を剥いて強い口調で反論する。


「それなら、誰が村人に罰を下すのだ。あの家族の怨みを晴らすのは誰の役目なんだ。神様か?」


 さらに言葉を続ける山犬。


「神様がいるなら、なぜ優しい家族が、あんな酷い目に合うんだ。神様なんていないだろう。だから、あの村に罰を下すのは」


 そして山犬は吠えた。


「俺だろう!」


 僕は山犬の怒りを受け止めながら、冷静に、努めて穏やかな口調で山犬に語りかける。


「お前の気持ちはわかる。だが、村人たちの悪意に罰を下すのは神でも、お前でもなく、村人たち自身なのだ」


 僕の言葉に山犬は首を傾げ、


「村人たち自身だと?」


 と、疑問の言葉を吐く。 その山犬の赤い目を見据えながら、僕は話を続けた。


「いずれ村人の歪んだ心は、自らを魔物にする。魔物となった彼らは、小さな村の中で互いに傷つけ合い、疑心暗鬼となった村は、やがて自滅するだろう」


 僕の話を黙って聞いていた山犬だが、それでも、こう言う。


「それならば魔物に堕ちた俺は、どうなる。これからの俺は、どうすればいいのだ?」

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