第3話③
蓮の姿を確認した千紘は、蓮の方へと近づき、話しかける。
「わざわざ待ってたのか?」
「まあね。ちょっと気になって」
「気になる?」
「ほら、幼馴染にフラれたって言ってたから。そういうの心配で気になっちゃうんだよ」
さすが王子と呼ばれるだけの事はあると千紘は思った。
知り合って日が浅い人間に対して、ここまで真摯になれるとは。
ずっと駅前に居るのも邪魔になるので、二人は並んで歩き出す。
蓮は、千紘から話すまで聞く気はないのか、自分の今日の話を始める。
しばらく世間話が続いたところで、千紘が口を開く。
「……今日な、いつも通りだったよ」
「いつも通り?」
「そう。いつも通り」
何も変化のないいつもの日常だった。
茉白の様子に気まずさはなく、千紘だけがどこか居心地の悪さを感じていた。
それすらも馬鹿らしいと思えるほど、茉白はいつも通りだった。
そんな細かい所を言うつもりはなかったが、千紘のどこか寂しそうな表情を見て、蓮は気持ちを察する。
「千紘君、手出して」
「手?はい」
蓮に言われたように千紘が右手を差し出すと、蓮はおもむろに千紘の手をギュッと握り観察を始める。
「ちょ!?早霧!?」
「私ね、手相占いができるんだよ」
「はあ?」
突拍子もないことを言い出す蓮に千紘は首を傾げる。
数秒手を観察した蓮は、手を離して千紘に言う。
「うん!大丈夫、千紘君は前に進めるよ。手相占いでそう出た」
蓮は千紘の心を撫でるような笑顔を見せる。
その表情に、千紘は少しドキッとする。
「……適当言ってるだけだろ?」
「失礼だね。これでも学校の子達には評判なんだよ」
それは蓮に手を握られるのが嬉しいだけだろと千紘は思ったが、口に出すのはやめた。
「どうだい?元気出た?」
蓮が千紘の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「……別に、胡散臭い占いだと思ったよ」
「な!?全く、君は本当に失礼だね」
千紘は小さく笑い、二人は何気ない会話をしながら帰路に着いた。