第3話②
「千紘、今日のお弁当は?」
昼休みになると、いつものように茉白が千紘に尋ねる。
父子家庭で家事全般を担当している千紘は、自分で弁当を作っている。
茉白の分も合わせて毎日2つ作っていたのだが、
「……悪い、今日は作ってないんだ」
昨日の件もあり、今日は茉白の分は作ってこなかった。
「え!?そっか、残念……」
それを聞いた茉白は、少し残念そうな表情を浮かべて、とぼとぼと歩いて教室を出て行った。
それと入れ替わるように杉人が千紘の机に自分の弁当を持ってやってくる。
「やっぱり変だろ、蛍峰は。普通フッた奴に弁当貰おうとするか?」
千紘の席に来るやいなや杉人が呆れ顔で言う。
杉人の言うように、茉白のクラスメイトからの評価は、可愛いけど変人というのが妥当だ。
容姿は整っていて、愛嬌もある。
しかし、どこか抜けていてズレている。
だからこそ、クラスメイト達も茉白とどう接すればいいのか分からなくなっている。
「千紘、マジで蛍峰のどこが好きなんだ?やっぱり顔か?」
「顔だけじゃないけど……」
改めて聞かれると、千紘は即答できない。
茉白を好きな理由など考えた事が無かった。
生まれた時から傍にいるのが当たり前で、安心した。
理由などない、茉白だから好きだったのだ。
「まあ何でもいいけどさ、あんまりずっと引きずるなよ」
杉人は心配そうに千紘に言う。
杉人からの言葉をありがたく受け取り、千紘は自作の弁当を開いた。
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学校が終わり、杉人はバイトで先に帰り、千紘は一人帰路に着いていた。
今日は実家の手伝いもなく、落ちる夕陽を見ながら歩いていると、朝蓮と分かれた駅に着く。
「あ、」
ふと改札の前を見ると、見覚えのある人影が柱にもたれかかっていた。
「おかえり、千紘君」
蓮は柱から体を離し、千紘の方に手を挙げた。