第28話②
事故から3日、千紘は毎日のように茉白の元に訪れていた。
茉白を庇い、意識不明になっている男性が蓮の叔父だと聞いた。
蓮の事も心配な千紘だが、彼女なら自ら立ち直れると感じていた。
「千紘、何かあった?」
浮かない顔をしていたせいか、茉白に聞かれる。
「……いや、なんでもない」
千紘はそう答えるが、茉白には分かった。
「……ねえ、千紘」
「なんだよ」
「これ、見て」
そう言いながら茉白は、自分の横に置いてあった熊のぬいぐるみを手に取る。
それ以外にも、茉白の周りには、花やお菓子などたくさんのお見舞いの品が置いてある。
「私ね、こんなに色んな人に心配かけちゃった。でもね、ちょっと嬉しいの。こんなにたくさんの人が、友達が、私を心配してくるんだって」
茉白は優しい笑みを浮かべながら、千紘を見る。
「私は、もう大丈夫。千紘が居なくても、大丈夫だよ」
茉白の言いたい事を、千紘はようやく理解する。
けれど、千紘はまだ動けない。
目の前の少女を放っておけない。
「……あいつは強いから、きっと一人でも─」
「千紘」
言いかけたところで、茉白は遮って言う。
「あの子ならじゃなくて、千紘がどうしたいか、それが大切な事だよ」
茉白の言葉に、千紘は目が覚めた気がした。
「……ごめん茉白、俺行くところ出来た」
「うん、いってらしゃい」
千紘は、茉白の病室を出て向かう。
蓮の元へと。
(蓮なら立ち直れるじゃない、今、俺が、あいつの傍にいてやりたいんだ!)
病院を出た千紘は、ただがむしゃらに走った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
千紘が去った後の病室に、静かな空気が流れる。
窓の外を見ると、2匹の鳥が仲睦まじくじゃれあっている。
その光景を見て、茉白は笑う。
その時、一滴の雫が、茉白の手に落ちる。
「……はは、もう、我慢しなくていいか」
茉白は、ただ泣きじゃくった。
その日、少女の泣き声が、密かに響いていた。




