第27話②
その日は、普通の一日で、特別な事なんて何も無かった。
いつも通り、授業を受けて、友達と話して、楽しい時間を過ごしていた。
それが変わったのは、昼休みの時だ。
先生に頼まれた資料を、職員室に届けた時、先生達の会話が聞こえてきた。
「それで?蛍峰は大丈夫なのか?」
その名前を聞いて、俺はピタリと動きを止める。
そして、今日一日、茉白の姿を見ていないことに気づく。
「命に別状はないみたいで、ですが…」
「茉白に、何かあったんですか?」
気づけば、尋ねていた。
話を聞かれていたことに、先生達は焦る。
「鷹辻!?今の話は……」
「茉白に、何かあったんですよね!」
「……落ち着いて聞けよ」
先生達の話を聞いて、俺は駆け出した。
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「茉白!」
「うわっ!びっくりした……」
病室の扉を開けると、茉白は変わらぬ様子で水を飲んでいた。
しかし、右足が骨折しており、その様は痛々しい。
「大丈夫なのか!?事故に遭ったって」
「声大きいよ。病院だから静かに」
そう言って笑う茉白を見て、千紘は安堵する。
「学校は?」
「抜け出してきた」
「ダメでしょ!ちゃんと行かないと!」
「学校どころじゃないだろ。茉白がこんな事になってんのに……」
千紘の言葉に、茉白は嬉しそうにしながらも、どこか呆れた様子を見せる。
「見てのとおり、私は大丈夫。知らないおじさんに助けてもらったから」
「そういえば、ニュースでも言ってたな。意識不明なんだって?」
「うん、すごく申し訳ない。もし、このまま……」
考えたくない事だが、ありえない話ではない。
完全に車の下敷きになって、全身の骨が折れている可能性すらある。
嫌な想像が、茉白の頭に浮かぶ。
「……とにかく、無事で良かった。今はとりあえず休んでろ」
無理は禁物、千紘は茉白を気遣い病室を出る。
(良かった、元気そうで)
一安心したところで、千紘の携帯が鳴る。
相手は敦子からで、珍しい相手に千紘は不思議に思いながらも電話に出る。
「もしもし、垣根さん?どうかしたのか?」
「千紘君!?」
電話の向こうにいる敦子の声は、焦っていて、涙ぐんでいるようにも聞こえ、落ち着きがない。
その異様な空気に、千紘も何かあったのだとすぐに気づく。
「落ち着いて、何があったか説明してくれ」
「……実は─」
敦子から聞かされた、あまりに悲しい事実に、千紘は手に持っていた携帯を地面に落とした。




