第25話②
蓮に惹かれている。
その事に気づいた千紘は、頭を抱えていた。
その理由は、自分の中に、まだ少なからず茉白への想いがあるからである。
2人の少女に、同時に惹かれている。
「……俺って、こんな最低な奴だったのか」
そんな事実に、千紘が自己嫌悪に苛まれていると、店の自動ドアが開く。
「あれ?今日はお客さん居ないんだ」
蓮がそんな事を言いながら、店の中へと入ってくる。
最近、蓮はこうして休日に店に来ることが増えた。
それが、余計に千紘の心をざわつかせる。
「開口一番、酷い事言うな。ウチの花屋は元々あんまり客いねえよ」
「そうなの?こんなに綺麗なのにね」
蓮は、飾りの薔薇を1本手に取り、千紘に向けながら言う。
「店の物に勝手に触るな」
千紘は、蓮から薔薇を取り上げて、元の位置に戻す。
その足取りを見て、蓮は違和感を覚える。
「ねえ、もしかして体調悪い?」
「え?いや、そんなことは……」
ない、と言おうとした千紘だが、そういえば朝から体が重たい事に気づく。
「ちょっと失礼」
「は?ちょ!?」
蓮は熱を測るためか、自分の額を千紘の額にくっつける。
(ち、近っ!?)
「んー、この測り方じゃよく分かんないね。体温計で測った方がいいよ」
「じゃあなんでその測り方した!」
「ちょ、ちょっとやってみたかっただけだし!」
千紘が叫ぶと、蓮は少し顔を赤らめて言う。
その仕草に、千紘の心臓がはねる。
(こいつ、人の気も知らないで……)
「っとと…」
少し声を荒らげたせいで、千紘はその場でよろける。
「ちょっと大丈夫?今日は休んだ方がいいんじゃない?」
「いや、無理だよ。ウチは常時赤字の店なんだ。一日でも店を開けとかないと」
「体調の方がよっぽど大事でしょ!ってか、千紘君のお父さんは?」
「……まあ、そのうち帰ってくるよ」
千紘の父親は神出鬼没だ。
千紘が高校生になってからは、より行方不明になることが多い。
「とにかく!今は休む!」
「いや、その間店どうすんだよ」
「わ、私がやっておくよ」
「いや、客に任せられるか」
「で、でも!茉白ちゃんにはやらしてたじゃん!」
「あいつは……家族、みたいなもんだし」
その言葉に、蓮の心にチクリと痛みが走る。
それと同時に、モヤッとした気持ちが込み上げてくる。
「とにかく!店番は私がするから!」
「だから!任せられないって!」
珍しく言い合いが始まり、騒いでいると、また自動ドアが開かれる。
「何をしているの?あなた達」
店に入ってきた人物を見て、千紘と蓮は驚く。
「げっ!?母さん!」
「鳩美先生?どうしてここに?」
「「……え?」」
2人は驚く。
それぞれが発した言葉に。




