第25話①
気持ちの変化とは恐ろしいものだ。
茉白の事が好きだった。
茉白が、俺以外の誰かと話しているのを見ると、腹が立ったし、嫉妬もした。
茉白が俺に向けてくれる信頼が嬉しくて、ずっと傍に居てやりたいと思っていた。
この気持ちは、茉白にフラれた後も変わりはなかった。
恋人でなくとも、傍に居てやればいいと、絶対に安心出来る存在として俺の傍に居てくれるなら、それでもいいと思っていた。
こんな女々しい気持ちが、変わる事などないと思っていた。
文化祭が終わって1週間、廊下で茉白を見かけると、クラスメイトと談笑している姿を見かける。
俺が近くを通っても、気付く事が無いほどに。
髪も染めず、ありのままの茉白を、周囲の人は認めている。
その中には男子も含まれていて、その視線が表す意味も、何となく分かった。
寂しくないと言えば嘘になる。
それと同時に、ありのままの茉白を受け入れてくれている事に、安堵と喜びも確かに感じていた。
それは、茉白への恋心が、少しずつ薄れている証明だろう。
そして、松富の言葉を思い出す。
『別の子を選んだら』
その別の子が誰なのか、言うまでもないだろう。
あの日から、頭の中から離れない。
あいつの顔が、声が、仕草の一つ一つが。
この症状がなんなのか、俺は知っている。
誰かに告白されて、自分の気持ちの変化にようやく気づく。
「お!今日は千紘君が先か。いつも遅刻するのに、珍しい」
駅から蓮が出てきて、からかうように言う。
普段、王子だとか呼ばれている彼女が、俺にだけ見せるその可憐な笑顔に心臓がはねる。
(そうか、俺は……)
初めは、男だと勘違いしていた。
失恋話を聞いてくれた良い奴だと思った。
毎朝一緒に登校する内に、その時間が楽しくて、王子とか呼ばれているけれど、本当は可愛いものが好きだったり、甘いものが好きだったり、女の子らしい性格なのだと知った。
(この気持ちを、俺は知ってる)
俺は、どうしようもなく、蓮に惹かれているのだと、ようやく気付いた。




