第3話①
蓮と分かれ、学校に着いた千紘はいつものように静かに教室に入る。
いつもなら誰も気にしないものだが、今日は何人かから視線を感じる。
既に千紘が茉白に告白したという噂が、広い学校でも広まり始めているようだ。
変に気にしても仕方がないので、千紘は何も言わず自分の席に座る。
その直後、千紘の席がある列の一番前に座っていた男が立ち上がり、ニヤニヤしながら千紘に近づいてくる。
「よう千紘、結果は散々だったみたいだな」
話しかけてきたのは海原 杉人
千紘のクラスメイトであり、唯一の友人である。
「散々って決めつけんなよ」
「でも当たってるだろ?」
杉人の言う通り、告白は散々だったと言っていいだろう。
そもそも異性として見られてなどいなかったのだから。
「でもまあ、俺は少し安心したぜ」
「友達がフラれて安心するとか、お前最低か?」
「からかってるわけじゃねえよ。俺はお前が蛍峰とくっつかなくて良かったって言ってんだ。言いたい事分かるだろ?」
「それは─」
千紘が話そうとしたその時、後ろの扉が音を立てて開かれる。
「みんな、おはよう!」
扉を開けた茉白は、クラスメイトに向かって笑顔で挨拶をした。
クラスメイトも何人かはそれに応えるが、どこかぎこちなさを感じる。
そして、千紘と目が合った。
「おはよう!千紘」
「……ああ、おはよう」
茉白は昨日の事など忘れたかのように千紘に挨拶をした。
千紘の横に居た杉人にも声をかけて、自分の席に座った。
「まるで、告白なんてされてませんって顔だな」
杉人が千紘にしか聞こえないくらいの声で言う。
杉人の言う通り、茉白の千紘に対する態度は昨日までと何ら変わりは無かった。
しかし、千紘がその事に戸惑う様子は無い。
千紘は蛍峰 茉白がどういう人間かよく知っている。
茉白は、自分が平気な事は、相手も平気だと考えている。
今回の場合、告白されても自分が何とも思っていないから、千紘も同じだと決めつけているのだ。
だから様子に変化がない。
茉白の中に千紘と気まずいという感情は存在しない。
その事を千紘はよく知っている。
千紘は一度茉白の方を見る。
そこには、いつもと変わらない様子でクラスメイトと談笑する茉白の姿がある。
千紘は窓の外を見つめ、空を動く雲を予鈴が鳴るまで見つめていた。