第24話②
千紘達のクラスの劇は、順調に進んでいた。
王子役である青葉が、パーティー会場で姫の侍女である心愛に恋に落ち、身分に差のある2人が紡いでいく恋の物語だ。
物語中盤までアクシデントなく進んでいたが、物語中盤の侍女の語りの時、アクシデントが起きる。
「キャッ!」
「うおっ!?」
セリフ言っている最中に、心愛がスカートを踏んで転びそうになる。
たまたま近くに居た千紘が受け止めた事で、事なきを得る。
(やべぇ、この後どうする……)
咄嗟に助けたのはいいが、台本にない状況で、千紘は戸惑う。
そんな千紘とは対称的に、心愛は立ち上がってニコッと笑う。
「ありがとう、騎士様」
心愛のアドリブのセリフに、千紘は会釈だけする。
セリフがない役のため、適当な事は言わない方がいいという判断だ。
心愛の演技力に助けられる形で、その場は乗り切った。
物語はラストシーンに入り、一番の見せ場であるプロポーズのシーンになる。
騎士役の2人は、王子役の青葉の後ろにそっと立っておくだけで、やることはない。
「姫君よりも、あなたに僕は惹かれたんだ!」
青葉が台本通り、プロポーズの言葉を口にする。
あとは、心愛が返事をすれば、千紘のクラスの劇は終幕だ。
(やっと終わる)
そう千紘が、胸をなで下ろした時だった。
「ありがとう。けれど、ごめんなさい」
(え!?)
心愛の台本と違うセリフに、クラス全員が驚く。
そんなクラスメイトを置き去りに、心愛はアドリブを続ける。
「私には、他に運命の人が居るから」
そう言って、心愛は千紘の前まで歩いて立ち止まる。
そして、千紘に顔目掛けて指を指す。
「私は、あなたが好きです」
心愛の瞳には、騎士ではなく、千紘が映っていた。
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「ナイスアドリブだったよ!委員長!」
劇が終わり、心愛のアドリブにクラスメイトが絶賛していた。
予想だにしない終わり方で、見ていた観客達も衝撃を受けて、劇はかなりの盛り上がりを見せたからだ。
「偶然のアクシデントも利用した、本当に良いアドリブだった!」
「それなら良かった。でもごめんなさい。皆が考えてくれたセリフを、勝手に変えたりして」
「そんなの全然いいよ!終わり良ければ全て良し、ってね!」
クラス全員が盛り上がる中、千紘だけが少し離れた所で固まっていた。
「それにしても、鷹辻は役得だよな!委員長から、演技とはいえ告白されたんだからさ!」
クラスメイトの1人が肩に手を回しながら言ってくる。
「演技、だったよな?」
「そりゃそうだろ?あの流れだったんだし」
「そう、だよな」
千紘も演技だと思いたい。
けれど、あの時の心愛を思い出すと、千紘には演技には思えなかった。
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千紘達が、舞台裏で盛り上がりを見せている時、観客席の方でも、1人涙を流している少女が居た。
(お姉ちゃん、超可愛かった!)
その少女の名は、桜河女子高校の1年生であり、心愛の妹である、松富 心芽である。
千紘と蓮のスキャンダルを目的に、心愛の家族として文化祭に参加した彼女だったが、すっかり目的を忘れて、大好きな姉の劇に夢中になっていた。
(それにしても、千紘先輩は相変らず間抜けな顔してたな。なんであんなのがモテるんだろ?)
中学の頃から千紘を知っている心芽からすれば、蓮が千紘に惚れている理由が分からなかった。
(ま、なんでもいいや。とりあえず、お姉ちゃんフォルダに写真を追加しなきゃ♪)
結局、心芽は目的を忘れて、心愛の写真を見ながら、ニヤついていた。




