第23話③
小学生の低学年の頃、私は千紘とばかり一緒に居た。
千紘以外は誰も信用せず、千紘さえ居れば何も要らなかった。
そんなある日、千紘が私と居るせいで悪く言われていた。
雪女の手先だとか、そんな言葉だったと思う。
「また、この髪のせいだ」
千紘が綺麗だと言ってくれた白い髪。
けれど、千紘以外の人には怖い髪。
「私のせいで、千紘が悪く言われて欲しくない!」
その日から、私は髪を黒く染めた。
髪だけじゃない、眉毛もまつ毛も、全てを黒く染めた。
お金もかかったけれど、その日私は、普通になった。
子供は純粋故に、特別を嫌う。
自分達とは違う私を毛嫌いしていたに過ぎない。
だから、毛が黒くなってから、いつしかいじめも無くなった。
千紘以外の人とも話すようになった。
それでも、私の中で千紘が1番であることは揺るがなかった。
いつまでも一緒に居たい。
そんな願望を、いつしか現実だと錯覚した。
私と同じ気持ちを、千紘も持っていると信じて疑わなかった。
だから、千紘に告白されたあの日、ショックを受けた。
私はこんなに愛しているのに、千紘の気持ちは、私より小さいんだって。
けれど、今思えば当然だ。
私の依存はただの押し付けなのだから。
私の依存は、恋から育てた愛ではないのだから。
その指摘を、早霧 蓮から受けたあの日、ようやく夢が覚めた気がした。
愛して欲しいと願った私は、当然愛しているという、勝手な現実にした。
千紘の気持ちを勝手に決めつけて、千紘の本当の気持ちを拒絶して、そのくせ離れられなくて、千紘の優しさに甘えて、依存し続けた。
そんな、最低最悪な私が辿り着いた結論
それは─
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(まあ、そういう反応だよね)
ステージ上から見た生徒達の表情を見て、茉白は当然だと言わんばかりに少し笑う。
一月も学校を休んでいた人間が、真っ白な髪の毛で現れたら、皆意味不明だという顔をするだろう。
ただ一人、そんな中でも別の驚きを見せる少年を見つける。
唯一、茉白の髪の事を知っていた千紘だ。
(千紘、見に来てくれたんだ。なら……)
会場が静まり返る中、茉白はマイクのスイッチをONにする。
「……会場の皆さん、2年1組の蛍峰 茉白です。まずは、驚かせてしまって、すみません」
茉白は深々と頭を下げる。
「私は、生まれつき髪や体が白く生まれてきました。昔は、これが理由で色々あって、黒く染めてました。でも、そんな風に隠すのは、もう辞めます」
茉白は一度目を瞑る。
千紘と離れて気づいた事、蓮に言われて思った事。
そして、いつしか歪んでしまっていた、自分の気持ち。
最低最悪な茉白が、導き出した結論
それは─
(この髪のように、白紙に戻すこと!もう一度、やり直すこと!)
「これが私です!蛍峰 茉白です!」
茉白は力強く叫ぶ。
その叫びは、まだ意味が分からず、立っていただけの生徒達も目が覚める程の衝撃を産み、皆黙ってステージ上の茉白を見る。
「真っ白の髪で、真っ白な瞳で、雪女みたいな、これが、本当の私なんです!だから……」
茉白は一度息継ぎをして、さっきよりもさらに大きな声で叫ぶ。
「だから、これからの私を、見ていてください!」
その叫びは、ほとんどの人には、その場の全員への言葉に聞こえただろう。
けれど、千紘には分かった。
それは、自分に向けられた言葉だと。
「……茉白」
気づけば、千紘は涙ぐんでいた。
ずっと傍で見てきた茉白が、コンプレックス『白』をさらけ出している。
その姿に、彼女の変化に、感動していた。
「……変わるから、ちゃんと見ててね」
「……ああ、もちろん」
その時、2人の間には何人もの人が居た。
けれど、確かに2人は、そう会話した。
周囲の反応は様々で、
1年生はわけも分からず盛り上がり、
2年生は、茉白の変化に気づき、歓声を上げている。
3年生は、茉白に対して声援をあげている。
千紘が距離を置こうと言ったあの日、お互いに絶対安心出来る人を失ったあの日、今までの物語が終わり、白紙に戻った2人の物語が、今日この瞬間から始まるのだと、2人は直感した。




