表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/70

第23話③

小学生の低学年の頃、私は千紘とばかり一緒に居た。

千紘以外は誰も信用せず、千紘さえ居れば何も要らなかった。

そんなある日、千紘が私と居るせいで悪く言われていた。

雪女の手先だとか、そんな言葉だったと思う。



 「また、この髪のせいだ」



千紘が綺麗だと言ってくれた白い髪。

けれど、千紘以外の人には怖い髪。



 「私のせいで、千紘が悪く言われて欲しくない!」



その日から、私は髪を黒く染めた。

髪だけじゃない、眉毛もまつ毛も、全てを黒く染めた。

お金もかかったけれど、その日私は、普通になった。


子供は純粋故に、特別を嫌う。

自分達とは違う私を毛嫌いしていたに過ぎない。

だから、毛が黒くなってから、いつしかいじめも無くなった。

千紘以外の人とも話すようになった。

それでも、私の中で千紘が1番であることは揺るがなかった。


いつまでも一緒に居たい。

そんな願望を、いつしか現実だと錯覚した。

私と同じ気持ちを、千紘も持っていると信じて疑わなかった。

だから、千紘に告白されたあの日、ショックを受けた。

私はこんなに愛しているのに、千紘の気持ちは、私より小さいんだって。


けれど、今思えば当然だ。

私の依存(あい)はただの押し付けなのだから。

私の依存は、恋から育てた愛ではないのだから。


その指摘を、早霧 蓮から受けたあの日、ようやく夢が覚めた気がした。

愛して欲しいと願った私は、当然愛しているという、勝手な現実にした。

千紘の気持ちを勝手に決めつけて、千紘の本当の気持ちを拒絶して、そのくせ離れられなくて、千紘の優しさに甘えて、依存(あい)し続けた。


そんな、最低最悪な私が辿り着いた結論

それは─



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 (まあ、そういう反応だよね)



ステージ上から見た生徒達の表情を見て、茉白は当然だと言わんばかりに少し笑う。

一月も学校を休んでいた人間が、真っ白な髪の毛で現れたら、皆意味不明だという顔をするだろう。


ただ一人、そんな中でも別の驚きを見せる少年を見つける。

唯一、茉白の髪の事を知っていた千紘だ。



 (千紘、見に来てくれたんだ。なら……)



会場が静まり返る中、茉白はマイクのスイッチをONにする。



 「……会場の皆さん、2年1組の蛍峰 茉白です。まずは、驚かせてしまって、すみません」



茉白は深々と頭を下げる。



 「私は、生まれつき髪や体が白く生まれてきました。昔は、これが理由で色々あって、黒く染めてました。でも、そんな風に隠すのは、もう辞めます」



茉白は一度目を瞑る。

千紘と離れて気づいた事、蓮に言われて思った事。

そして、いつしか歪んでしまっていた、自分の気持ち。

最低最悪な茉白が、導き出した結論

それは─



 (この髪のように、白紙に戻すこと!もう一度、やり直すこと!)


 「これが私です!蛍峰 茉白です!」



茉白は力強く叫ぶ。

その叫びは、まだ意味が分からず、立っていただけの生徒達も目が覚める程の衝撃を産み、皆黙ってステージ上の茉白を見る。



 「真っ白の髪で、真っ白な瞳で、雪女みたいな、これが、本当の私なんです!だから……」



茉白は一度息継ぎをして、さっきよりもさらに大きな声で叫ぶ。



 「だから、これからの私を、見ていてください!」



その叫びは、ほとんどの人には、その場の全員への言葉に聞こえただろう。

けれど、千紘には分かった。

それは、自分に向けられた言葉だと。



 「……茉白」



気づけば、千紘は涙ぐんでいた。

ずっと傍で見てきた茉白が、コンプレックス『白』をさらけ出している。

その姿に、彼女の変化に、感動していた。



 「……変わるから、ちゃんと見ててね」


 「……ああ、もちろん」



その時、2人の間には何人もの人が居た。

けれど、確かに2人は、そう会話した。


周囲の反応は様々で、

1年生はわけも分からず盛り上がり、

2年生は、茉白の変化に気づき、歓声を上げている。

3年生は、茉白に対して声援をあげている。


千紘が距離を置こうと言ったあの日、お互いに絶対安心出来る人を失ったあの日、今までの物語が終わり、白紙に戻った2人の物語が、今日この瞬間から始まるのだと、2人は直感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ