第21話③
「あ〜、疲れた〜」
文化祭の準備が一区切りついたところで、千紘は杉人と購買でお菓子を買い、食堂で休憩していた。
「今年も文化祭の季節だな〜」
「去年より準備に疲れるけどな」
一年の頃の出し物は展示だったため、千紘達がやることはほとんどなかった。
そのため、その落差でどっと疲れが出ている。
「それより知ってるか?蛍峰のこと」
「……ああ、一応」
文化祭も大事だが、千紘にとって気がかりな事がもう1つ。
それが茉白の事だ。
ゴールデンウィークが明けて2週間、茉白は一度も学校に登校していないらしい。
もしかしたら、自分のせいなんじゃないかと、千紘は考えている。
自分が距離を取ろうと言ったからではないか、と。
「意外だな、もっと心配するのかと思ってた」
杉人が顎をテーブルにつけながら言う。
その通りで、千紘自身もその事に驚いていた。
茉白が学校に来ていないと聞いても、連絡をしてみようと考えなかったのだ。
その理由を、千紘は何となく分かっていた。
「まあ、充実してたからかもな」
そう、充実していたのだ。
茉白が居ない学校生活に。
洋史や青葉と友達になり、クラスメイトとも話すようになった。
そんな生活が楽しいと感じていたのだ。
「まあ、これではっきりしたろ、千紘は蛍峰以外とも上手くやれるって」
「それはそうだが……」
「あんまり考えすぎんなよ。別に千紘は、蛍峰の親でも、ましてや彼氏でもねえんだから」
杉人の言うとおりだと、千紘は思った。
家族のように育っただけで、家族では無い。
ただのフラれた男だ。
「それよりさ、今年のミスコンも見るよな?」
杉人が話題を変えたところで、千紘も考えるのをやめた。
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「はぁ〜、見たかったな〜、千紘君の騎士姿」
その日の帰り道、文化祭で千紘が騎士役をやるという話をすると、その姿が見れないと蓮は嘆いていた。
「そんなに見たいか?全然似合ってないぞ」
「そんな事ないでしょ。騎士なんて、千紘君にピッタリじゃん」
「どこが?騎士ってのは、元がかっこいい奴が似合うんだよ」
「……だから、言ってるんだよ」
「え?」
蓮は千紘の前に行き、くるりと振り返り、言う。
「千紘君はかっこいいよ。王子の私が保証する」
「……俺よりイケメンに言われても」
「信じてないなー!」
そう言って蓮は、頬を膨らませながら、再び歩き出す。
その後ろを、千紘はついて行く。
(……王子だって言うなら、もっとカッコイイ顔をしろよ)
千紘をかっこいい、と言う蓮の顔は、王子と言うより、可憐な乙女の表情だった。
激しく音を鳴らす心音が聞かれないよう、千紘は蓮から離れて歩いた。




