第21話②
5月の下旬になれば、春芝高校は忙しくなる。
なぜなら、
「文化祭だー!」
「うるっさい!」
叫ぶ洋史を青葉がゲンコツで黙らせる。
相変わらずの夫婦漫才を見て、千紘は苦笑いを浮かべる。
文化祭は、本来秋頃に行われる行事だが、春芝高校の文化祭は、6月に行われる。
3年生の受験を考慮した結果だ。
文化祭の期間は3日間で、他校の生徒を呼ぶことはできない。
代わりに、家族を呼ぶ事ができるようになっている。
生憎、千紘に呼ぶ家族はいない。
父親を呼ぶつもりなどないからだ。
本番は3日間だが、準備期間は2週間以上設けられていて、準備期間中は午後からの授業も準備に変わるため、喜んでいる生徒も多い。
肝心の千紘達のクラスの出し物はと言うと、
「キャー!やっぱり松富さん似合うー!」
「そ、そう?」
千紘が廊下で備品を作っていると、教室の中からそんな声が聞こえる。
覗いてみると、心愛が侍女のような衣装を着こなしていた。
そう、千紘達のクラスは劇をやるのだ。
正確には、2年生は劇をやると決まっている。
千紘達のクラスの演目は、シンデレラである。
とは言っても、物語は少し違い、国の王子と、王女に仕える侍女が恋に落ちるという話だ。
そのヒロインである侍女役に心愛が抜擢された。
容姿が整っているのはもちろん、真面目で優等生な所が、王女に仕える侍女という設定にマッチしたのだろう。
実際、その侍女姿が良く似合っており、クラスの男子達が顔を赤らめている。
ちなみに、王子役は青葉がすることになった。
バレー部で背が高く、映えるからだ。
そして、千紘はと言うと、
「次、鷹辻君の番だよ!」
「あの、本当にやらなきゃダメか?」
「ダーメ!セリフないんだから、これくらいする!」
クラスの女子からそう言われ、千紘は渋々衣装に着替える。
千紘の役は、王子を守る騎士の一人だ。
騎士は二人居て、セリフはもう一人に譲った。
着替えたと言ったが、マントを制服に付けただけで、ほとんど変わらない。
「うーん……なんか普通だね」
騎士の姿になった千紘を見て、青葉が言う。
「悪かったな、普通で」
「そう?よく似合ってると思うけど」
心愛がそう言って近づいてくる。
気のせいか、いつもより表情が柔らかく感じる。
「まあ、マント付けただけだからな。似合う似合わないもないだろ」
そう言いながら、千紘はマントをなびかせてみた。
「ちょっとカッコつけてる」
心愛にクスクスと笑われて、千紘は恥ずかしさで頬が赤くなった。




