第21話①
ゴールデンウィークも終わり、来週から梅雨入りすると朝のニュースで言っていた今日この頃、千紘はいつものように学校に向かう。
そして、いつも通りに彼女と会う。
「おはよう、千紘君」
「……ああ、おはよう」
蓮は可憐な笑顔を千紘に向ける。
あの日、ゴールデンウィーク最終日から、蓮の様子が少し変わった。
千紘もどう表現すればいいか分からないが、どこか柔らかくなった。
何かあったのかと聞いても、別にと笑顔で返される。
その内、千紘も聞くことをやめて、今まで通りに接している。
「来週から梅雨入りするらしいねー」
「もう6月になるからな。雨ばっかだと憂鬱だよ」
雨は降っていないが、黒い曇り空を見上げながら、そんな会話をする。
「でも、男子的には気になるあの子と相合傘とか出来ていいんじゃない?」
「からかうなよ。そんな相手居ないって知ってるだろ?」
「なら、私が入ってあげる」
「アホか。自分で傘持ってこい」
変化と言えば、最近の蓮の言動についても少し変わった。
以前のようにからかってくるのは来るのだが、その内容が、恋愛的なものが多くなった気がする。
(ま、本人はあんまり気にしてないだろうけど)
今も特に変わった様子はないため、蓮にとっては本当にからかっているだけなのだろう。
けれど、千紘の方は違う。
あの時、後ろから抱きつかれてから、蓮が女の子であるという意識が強くなった。
そのため、この登下校も、最近の千紘は少し緊張している。
「千紘君、聞いてる?」
そんな考え事をしていると、蓮が少し怒った顔で言う。
「悪い、なんだって?」
「だから、私達もなんだかんだで付き合いが長くなってきたわけですよ。そろそろ、いいんじゃない?」
「えっと、何の話?」
「だ、か、ら!私の事、いつまで早霧って呼んでるの?」
「え?いや、そりゃー……」
いつまでも、と言おうとしたが、蓮から圧がかかる。
その圧に、千紘は負けた。
(まあ、名前くらいはいいか)
「分かったよ、れ、蓮……」
「うん!千紘君!」
簡単だと思ったが、想像以上に恥ずかしい。
慣れない様子で名前を呼ばれ、蓮は笑顔を見せる。
「ねえ、千紘君」
「なんだよ」
どうせ照れてる、とか言われてからかわれるんだろうと思った千紘だったが、
「ふふっ、呼んでみただけ」
「は?」
「あ!じゃあね、千紘君」
「あ、おい!」
蓮はいつの間にか着いていた駅に向かって走って行った。
「……何か、本当に変わったな」
何が変わったかは分からないが、今の蓮からは、王子を欠片も感じないと千紘は思った。




