第20話①
ゴールデンウィーク最終日、今日も今日とて、千紘は店番をしている。
いつもの常連客も旅行に出かけていて、商店街は殺風景になっていた。
千紘の家も例外ではなく、花屋は閑古鳥が鳴いている。
「……掃除でもするか」
あまりにも暇なため、千紘は掃除道具を持ち、店前を掃除することを決める。
外に出ると、5月だと言うのに、太陽が照りつけていて、少し動けば汗が出る。
「あの、少しいいですか」
額の汗を拭いながら掃除をしていると、ハンカチで汗を拭きながら、スーツを着た男性が千紘に話しかける。
「花を買いたいんですが、やってますか?」
「はい!見ての通り閑古鳥が鳴いていますが」
千紘が冗談混じりに言うと、男性は笑って、どこか安堵した様子を見せる。
「良かったです。いつも行ってる花屋さんが閉まっていて、他を探していたところなんです」
「ゴールデンウィークですからね、普通は閉めますよ。どうぞ中へ」
そう言って、千紘は男性を店内へ案内する。
店の中は、弱めに冷房を効かせていて、涼しく感じる。
「本日はどんな花をお求めで?」
「お墓に添えられる、白い花、ですかね」
千紘が尋ねると、男性は遠慮気味に言う。
「お墓、ですか?」
「はい、今日が姉の命日でして。姉が好きな色の花を添えようかと」
「そうでしたか、でしたら─」
千紘は、いくつか花を持ってきて、説明をする。
しかし、男性はあまり花に詳しい訳ではなく、どれもしっくりきていない感じだ。
どうしたものかと千紘が困っていると、男性がレジ前に置かれている白い花を指さす。
「あれは、なんて花なんですか?」
「あれですか?あれは、チャノキの花というものです。造花ですけど」
父が造花の練習をすると言い出した時に、千紘が最初に提案した花だ。
「綺麗な花ですね。どうしてあの花を?」
「特別な意味は無いです。自分が好きってだけで」
「そうなんですね……よし!あれと同じものをください」
「え!?」
男性は少し考えた後、千紘にそう告げる。
「姉の好きだった白ですし、何より、綺麗だと思いましたから」
「でも、造花ですよ?それに、俺が好きってだけで……」
「お墓に造花を置くことは、別に問題じゃないですよ。それに、ここの花屋に寄ったのも何かの縁。娘にも言っていることですが、こういった縁を、僕は大事にしたいんです」
「……そういう事でしたら」
笑顔で言う男性を見て、心穏やかな人だと分かる。
千紘はそれ以上は止めず、チャノキの造花を紙に包み、男性に渡す。
「ありがとうございます。姉も喜びます」
「いえいえ、俺は何もしてません。また来てください」
男性は何度もお礼を言いながら店を後にした。
その背中を見送った千紘は、手を上げて伸びをする。
「……よし!掃除再開!」
特別な日ではないが、少し良いことをしたと、千紘はどこか清々しい気持ちになった。