第19話④
「なんか、変な奴だったな」
青年が去って行った方を見ながら、千紘が言う。
そんな千紘を見ながら、蓮は尋ねる。
「……何で否定しなかったの?」
「何が?」
「千紘君、私の彼氏だって勘違いされたけど?」
「別に、二度と会うこともない奴に、否定する意味もないだろ。あ、悪い、嫌だったよな!」
「え!?いや、嫌とかは、別に……」
「え?そ、そうか?」
2人の間に、気まずい沈黙が流れる。
そんな空気を変えようと、蓮は言う。
「そ、それにしても、私も捨てたものじゃないね。ナンパされるなんて、もしかして、王子キャラ以外でもやれるかな?なーんて……」
蓮が冗談混じりでそう言うと、千紘は少し怒ったような顔をしている。
「……あんまり、そう楽観的に考えるなよ」
「い、いやだな〜、冗談だよ!」
「冗談とかじゃなくて、本当に危ない事だってあるんだからな」
「うっ!」
千紘の真面目な説教に、蓮は反省する。
その様子を見て、千紘にもその気持ちが伝わる。
「とにかく、これからはもっと気をつけろよ。早霧は女の子なんだから」
「え!?」
突然の発言に、蓮はまた驚く。
「なんだ?変な事言ったか?」
「い、いや、いきなり女の子なんて言うから」
「それがどうした?」
「べ、別に!?」
蓮の様子は明らかにおかしかったが、本人が大丈夫と言う以上、千紘も追求はしない。
「そろそろ時間だし、帰るか」
「そ、そうだね」
そう言って、千紘は駅の方へと歩き出す。
その後ろを蓮はゆっくりとついて行く。
目の前の千紘の背中が、蓮はいつもより大きく感じた。
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「……女の子、か」
敦子の家に帰って来た蓮は、敦子がお風呂に入っている間の一人の時間に、昼間の事を思い出していた。
「……いつもは、私が守る側なんだけどな」
学校帰りや休日、いつだって蓮は、同級生の王子様だった。
王子の仮面を被っている時は、いつもより強い人間になれる。
「……なんか、むず痒い」
女の子扱いや、守られる事に慣れていない蓮は、今日の千紘を思い出し、なんだか胸がムズムズとした。




