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第19話③

 「お〜!こんなに美しいレディに会えるなんて、今日の僕は運が良い!」



金髪の青年は、赤い薔薇を手に持ち、変なポーズを決めながらクネクネと動いて、キザなセリフを吐いている。



 (こ、これは、ナンパだ!)



そんな青年の動きと言葉に引きながらも、蓮は自分がナンパされているという事実に衝撃を受けていた。

それもそのはずで、今まで、女性に声をかけられる事はあれど、男性から声をかけられた経験が蓮にはなかった。



 (そっか、この服着てるから……)



ガラスに写る自分を見て、蓮は納得する。

普段は、男物の服を着ているから、女だと思われていないだけで、女性物の服を着れば、蓮のイケメンは美少女に変わる。

事実、本人は気づいていないが、千紘と歩いている時も、すれ違う男達は蓮に見惚れていた。



 (……もしかして、意外と似合ってるのかな?)



女性物の服は自分には合わないと思い、今まで避けてきた蓮だが、ナンパされているという事実から、そんな事を思い始める。



 (そうだよ、千紘君だって、似合ってるって言ってたし!)



すると、青年は手に持っていた薔薇を蓮の方へと差し出す。



 「良ければ、これから僕とティータイムでもどうかな?」


 「えっと、すみません、連れがいるので」


 「なんて事ないよ!そのレディもウェルカムさ!」


 「あ、いや、連れは女の子じゃ─」


 「おい!」



突然、怒号に近い声が聞こえてくる。

声の方を見ると、千紘が血相を変えて近づいてきていた。



 「ち、千紘君?」



蓮の前まで来た千紘は、蓮を庇うように前に出る。



 「おや?君は誰かな?」


 

青年は手に持っていた薔薇を、服の胸ポケットに仕舞い、千紘に聞く。



 「この子の連れだよ。用があるなら聞くけど?」


 「君に用はないよ。用があるのは、後ろのレディさ」


 「ナンパか?別に悪いことじゃねえけど、詰め寄るってのは良くねえだろ?」



どうやら、千紘には蓮が詰め寄られているように見えていたらしい。



 「千紘君落ち着いて!普通に話しかけられただけだから!」


 「え?」


 「そんな、詰め寄るとかされてないから!」


 「そ、そうなのか?けど……」



確かに、青年の動きや言動に若干引いた蓮だが、決して無理やり連れていかれるとか、そんな強引なものではなかった。

ありふれたただのナンパにすぎない。

蓮が千紘を落ち着かせていると、その姿を見た青年がフッと笑う。



 「失礼、そういう事か」


 「どういう事だ?」



青年に千紘が聞き返す。



 「いやいや、ボーイフレンドの居る女性に話しかけた僕が悪かったと思っただけだよ」


 「……え!?」


 「その通りだな、分かったらとっとと帰れ」


 「え!?」


 「そうさせてもらうよ、ボーイ、そのレディを幸せにね」


 「言われなくても」


 「ちょ、ちょ!?」



青年はキザな笑みを浮かべながら、去って行った。

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