第19話①
恥ずかしがる蓮だったが、店の中で蹲り続けるのは良くないと、席に座って注文を終える。
いつもと違う格好を見られ恥ずかしい蓮と、落ち着かない千紘、楽しそうにニヤニヤしている敦子の3人が相席する。
「ちょーっとお花摘みに行ってまいりますわ〜」
「え!?ちょっと敦子!?」
敦子は、わざとらしくお嬢様のような声を出しながら席を立つ。
残された2人の間に沈黙が流れる。
「……何か、言うことないの?」
「え?」
そんな沈黙を、蓮が破る。
「どうせ、似合ってないって思ってるんでしょ」
「いや、そんな事は……」
「嘘つかなくていいから、分かってるよ。私にこんな女の子らしい格好は似合わないって」
「そんな事ないって!普通に似合ってるから!」
思わず千紘が大声で叫んでしまう。
幸い、店内の人達は気にしていない様子だ。
「……悪い、ちょっと熱くなりすぎた」
「いや、こっちこそ……」
「……似合ってないとか、そんな事思ってねえから。ただ……」
そこで千紘の言葉が詰まる。
「……ただ?」
恥ずかしさで渋っていた千紘だが、蓮に聞き返され観念する。
「…ただ、いつもと違うから、緊張するっていうか……」
顔を赤くしながら、そう言う千紘を見て、蓮も恥ずかしくなってくる。
お互いが、恥ずかしさで、お互いの顔を見れない。
(ん〜!初々しいな〜)
そんな2人の様子を、遠くから眺める敦子であった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「いや〜!食べた食べた!」
昼食を終え、3人は店を出る。
時間は既に14時を回っていた。
夕方から雨の予報なので、ゆっくりはしていられない。
「千紘君はこれからどうすんの?」
「どうするっても、帰るだけだな」
「え〜?せっかく普段来ない街に来たのに?」
「まあ、確かに……」
敦子の言う通り、桜河女子高校の近くに千紘の用は基本ない。
こんな機会でもない限り、周りを見て回る事などをないだろう。
「……そうだな、せっかくだし、ちょっと散歩してから帰るかな」
どうせ家に帰っても店番だと思った千紘は、周辺を散歩がてらぶらつく事を決める。
そこで、敦子がニヤリと笑う。
「なら、蓮が案内してあげなよ!」
「へっ!?」
突然の提案に、蓮は驚きの声を上げる。
「ちょ、ちょっと!?勝手に決めないでよ!今日は敦子と遊ぶ約束でしょ!」
「そんなのいいよ〜!私とはいつだって遊べるし〜」
「で、でも─」
「それに〜、知らない街で千紘君が迷子になってもいいの〜?」
「そ、それはさすがに……」
「千紘君だって、話し相手が居た方がいいよね?」
さすがの千紘も、今のご時世で迷子はないと思ったが、知らない街をただ歩くだけというのは確かに味気ない。
「まあ、2人がそれでいいなら」
千紘は敦子の案に賛成する形で言う。
「じゃあ決まり!頑張ってね、蓮!」
「え!?ちょっと敦子!」
蓮の制止も聞こえぬうちに、敦子は走り去ってしまった。
蓮は行き場のない手を、空に差し伸べている。
「えっと、やめとくか?」
「……いや、案内するよ」
そう言って2人は歩き始めた。
いつもより少し、離れた距離で。