第2話①
眼前の事実が信じられず、千紘は口を大きく開けて固まる。
「あの、千紘さん?」
そんな千紘の頬を蓮はスカートをなびかせながらツンツンと突く。
その行動で、千紘はハッとして蓮と目を合わせる。
「お、おはよう蓮君。その格好は?」
まだ信じられない千紘は、一縷の望みにかけてそう問いかける。
「学校の制服ですけど?」
見れば分かるだろと言いたげな顔で蓮は千紘を見上げる。
その表情が妙に色っぽく見えて、千紘は目を逸らす。
昨日は何とも思わなかったが、女の子だと分かって見ると、蓮の容姿は美しいイケメンと言うよりは綺麗な女性だ。
「……蓮君、じゃなくて、蓮ちゃんって女の子だったのね」
「そうですよ?あ、男だと思ってたんですか?」
「えっと、まあ、はい」
「はは!気にしないでください、よく間違われますから。それと、普通に呼び捨てでいいですよ」
「そ、そうか?なら、俺も敬語とかいいよ、同い年だろ?」
「そっか、なら改めてよろしく、千紘君」
蓮はニコッと笑う。
女の子だと分かって見ても、爽やかな青年のようにも見えるから不思議である。
「それにしても、早霧は桜河女子なんだな」
「呼び捨てって、下の名前でいいって意味なんだけど?」
「いや、女子をいきなり下の名前はキツイって…」
「昨日あんなに話したのに?」
「あれは勘違いしてたからって言うか……」
「ふーん、まあいいや、そう私は桜河女子高校の一年生だよ。ちなみに、皆からは王子って呼ばれてるんだ」
蓮は自分の胸に手を置き、誇らしげに言う。
桜河女子高校とは、千紘達の住む街から4駅程行ったところにある名門女子高で、教師含めて男子禁制の学校である。
そのため、学校の最寄り駅に止まる電車は、朝の時間は半分の車両が女性専用となる。
そんな花園に、蓮のようなカッコイイ女子が居れば、王子と呼ばれるのも納得である。
実際、千紘も「だろうな」と心の中で思った。
「そう言う千紘君も春芝高校って結構な進学校だよね」
「これはまあ、受験を頑張っただけだよ」
「それは、例の幼馴染ちゃんのため?」
蓮の言葉に、千紘は静かに頷く。
茉白と一緒に居たいというだけの理由で、春芝高校を選んだ。
けれど、フラれたからなのか、今まで頑張って来た勉強へのやる気がなくなっていた。
「……ねえ、駅まで一緒に行かない?」
「え?」
「ほら、商店街を抜けた先の駅、私そこから乗るから」
「あ、ああ」
提案を断る理由もなく、千紘は蓮と歩き始めた。