第17話③
駅前の喫茶店に入り、注文したケーキと飲み物が机の上に置かれる。
蓮と茉白は向かい合ったまま、沈黙が続く。
ずっと動かないのもおかしな話なので、蓮はフォークを手に取り、ショートケーキのてっぺんのいちごを口に運ぶ。
いつもなら美味しく感じるいちごも、緊張のせいかあまり味を感じない。
「……真っ白なケーキ」
蓮がいちごを飲み込み、シンボルのいちごが無くなったケーキ見て茉白が語り始めた。
「……私ね、白い物が嫌いだったの」
「それは、どうして?」
「何色でもない、何の個性もない色だから」
茉白は、光の無い目でケーキを見つめる。
蓮は催促する訳でもなく、ただ茉白が続きを話し始めるのを黙って待つ。
「昔、それが理由でよくいじめられたの」
茉白の言葉の意味が、蓮には分からなかった。
茉白の容姿に、特別白い要素が無いからだ。
強いて言うならば、瞳と名前だが、蓮はどこか腑に落ちなかった。
「ある人が言ってくれたの。白くて綺麗だねって」
ある人が誰か、蓮はすぐに分かった。
「白い花もくれたの。チャノキの花って言う花。綺麗だったなー」
茉白は、思い出しながら微笑む。
その目に少し輝きが戻り、その目は愛情に満ちていた。
「ずっと一緒にって約束したんだけど、千紘も結局離れちゃった……」
茉白は隠す事をやめて、千紘の名前を口にする。
当然、蓮が驚く事はない。
「……そんなに想ってるなら、どうしてフッたの?」
「え?」
「千紘君に、告白されたでしょ?どうして?」
茉白の表情から、声から、千紘に対する想いを強く感じる。
それを目の前で感じた蓮は、聞かずにはいられなかった。
ほとんど話したこともない蓮ですら感じられるほど強い愛情がありながら、千紘の想いを踏みにじった訳を。
「……付き合うって、恋をするってことでしょ?」
茉白の問いかけに、蓮は頷く。
「私、ショックだったの」
「ショック?」
「私はこんなに愛しているのに、千紘は今更、恋してるんだって」
茉白の言っている意味が分からず、蓮は言葉を詰まらせる。
それを知ってか知らずか、茉白はその意味を口にする。
「恋は愛の劣化でしょ?」
「……何を、言ってるの?」
「だってそうでしょ?人は恋をして、それが強くなったら愛になるんでしょ?なら、最初から愛し合っているなら、恋する必要なんてないでしょ?」
茉白の言っている事が、蓮には理解出来ない。
けれど、確かなことが一つだけ分かった。
「……あなたのそれは、恋でもなければ、愛でもないよ」
「……なら、何だって言うの?」
「それは、依存だよ」
蓮は茉白の目をしっかりと見て言った。