第17話②
「こんにちは、早霧 蓮さん」
その声が聞こえた瞬間、蓮の体が震え出す。
思い出される、春休みの出来事。
千紘の家で出会った、美しくも恐ろしい少女
その少女、蛍峰 茉白を思い出し、蓮は少し怯えながら声の方を見る。
しかし、今の茉白の姿を見て、蓮の震えは止まった。
そこに立っている少女は、本当にあの時と同じ人物なのかと思うほどに弱々しく、不安げな瞳をしていた。
「……こんにちは」
あまりの違いに戸惑う蓮だが、とりあえず挨拶を返す。
できるだけ笑顔を作ったが、戸惑いと驚きでぎこちない顔になる。
「こんなところで、誰かの待ってるの?」
茉白は気にした様子もなく蓮に聞く。
いや、そもそも蓮顔が見えていないように思えた。
蓮の前に体はあるが、心がない。
そんな雰囲気。
「えっと、友達を待ってて」
「そっか、それじゃあね」
「え?」
相手は千紘かと問い詰められると覚悟した蓮だったが、茉白は気にする素振りもなく立ち去ろうとする。
あまりにも様子がおかしい茉白を見て、蓮は心配になる。
「あの、何かありました?」
去ろうとする茉白に、蓮は静かに問いかける。
「……どうして?」
「なんというか、あまりに元気がないので……」
「……別に何もないよ。ちょっと、疲れてるだけだから」
蓮の制止も意味はなく、茉白は立ち去ろうとする。
その背中が、不安で泣きじゃくる幼子のように蓮の目には映った。
次の瞬間、蓮は茉白の腕を掴んでいた。
茉白は、驚きと同時に振り返る。
「え?」
「あの!甘いもの、食べに行きませんか?」
今の茉白を放っておくことが、蓮には出来なかった。