第17話①
「これ、チャノキの花って言って、俺が一番好きな花なんだ」
そう言いながら、無邪気な笑顔の少年が、真っ白な髪の少女にチャノキの花を手渡した。
もう何年も前の古い記憶。
「茉白ちゃんの髪は、この花みたいに綺麗だよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ!つい見とれちゃうくらい綺麗だよ!」
「でも、この髪のせいでみんな離れちゃう……」
「なら、俺がずっと一緒に居るよ」
「ほんとにずっと?」
「うん!約束だから」
「うん!」
2人は指切りをして約束した。
ずっと一緒に居ると、離れないと。
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懐かしい夢を見た。
ずっと昔の記憶。
千紘とずっと一緒だと約束を交した日の夢
「……結局、千紘も離れていっちゃった」
千紘と距離ができて2週間が経つ。
学校で会っても挨拶だけで、会話はない。
重たい体を起こして、ふと枕を見ると、白い1本の髪の毛が抜けていた。
「そろそろ、染めないと」
気力が無くてすっかり忘れていた。
大嫌いな髪で、千紘との切れない繋がりだった髪
でも、もう……
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学校に着いた茉白は、クラスメイト達に挨拶をする。
しかし、以前のような活気のある声ではなく、どこか覇気のない声だった。
茉白の変人っぷりに若干抵抗があったクラスメイト達も、さすがに今の姿は見兼ねるらしく、以前よりも優しく接していた。
そんなクラスメイト達の温かみをありがたいと思うも、茉白の心の寂しさは埋まらない。
昼休みになると、千紘がクラスメイトの子と談笑している姿を見かけるようになった。
遠目に見ても楽しそうで、茉白はそこに入っていく勇気は持てなかった。
(どこで間違えたんだろ……)
茉白はそれが分からない。
あの千紘の告白を、茉白は正しく認識出来ていない。
「蛍峰さん、一緒にお昼行かない?」
クラスメイトがそう言ってくれるおかげで、昼休みに一人になることはない。
けれど、食堂のご飯はどこか味気ない。
千紘のお弁当が恋しくなる。
(……このまま、疎遠になったらどうしよう)
そんな考えが、茉白の頭を何度も過ぎった。
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放課後になり、部活が休みの茉白は帰路に着く。
校門で千紘を数分待ってはみたものの、何か用事があったのか出てこなかった。
仕方なく茉白は、一人で帰ることを決める。
最寄りの駅が見えてきたと同時に、見覚えのある人影が目に入る。
その少女を見て、茉白は足を止めた。
(あの子は、確か……)
以前、千紘の家の花屋で出会った少女
男の子のような格好をしていて、茉白も勘違いをした少女
あの時はイケメンだと思った容姿も、制服を着れば美少女に変わる。
(……千紘は、何であの子と……)
純粋に知りたくなった。
千紘と蓮の繋がりを。
「こんにちは、早霧 蓮さん」
茉白は薄氷のような瞳を揺らしながら静かに微笑んだ。




