第16話③
昼食を食べ終えた頃、体育委員になった青葉と洋史は先生に呼び出されたため、千紘に一言言ってからその場を離れる。
「同じ委員会に入ってるって、やっぱり仲良いよな」
走って行く2人の背中を見ながら千紘は呟く。
一人になった千紘は、改めて自分がどれだけ周りを見ていなかったか思い知らされる。
特に、青葉が同じクラスだったにも関わらず、知らなかったのは最早失礼だ。
それでも、今仲良くなれたのは前進している証拠でもあると、千紘はポジティブに考える。
「早速友人ができたのね」
弁当の片付けをしていると、後ろから話しかけらる。
振り向くと、心愛が紙の束を持って立っていた。
「重そうだな」
「そう見えるなら、手伝ってくれる?」
そう言われて、千紘は半分と少し心愛から紙を受け取る。
「次の化学の授業で使うらしくて。先生に頼まれたの」
「なるほど、断らないのが松富らしいな」
2人は並んで化学室へと向かう。
「それで?新しい友人とはどんな話してたの?」
「まあ、色々とな」
自分の視野の狭さを思い知る羽目にもなったが、洋史達と話す時間は、千紘も楽しいと感じた。
「楽しそうで良かった。視野を広くとは言ったけど、ちょっと心配だったから」
「心配?」
「ちょっと上から助言しちゃったから。余計な事したかなって思って」
「そんなことないって。むしろ、松富のおかげで勇気を持てたんだから」
「それは、茉白と離れる勇気?」
「そう。それと、諦める勇気」
千紘がそう言うと、心愛は立ち止まった。
「松富?」
「……茉白の事、諦めたの?」
心愛は驚いた様子で千紘に聞く。
心愛とは逆で、千紘は少し笑い、軽い口調で言う。
「諦めたよ。遅すぎるくらいだろ?」
「そうだけど、そんな簡単に諦めると思っていなくて……」
「そうなのか?」
「ええ、私はてっきり─」
そこまで言ったところで、心愛の口が止まる。
「てっきり?」
「……いえ、何でもないわ」
それから心愛から茉白の話が出ることはなく、2人は化学室に到着した。
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「それじゃあ、私は生徒会室に行くから」
「そっか、じゃあまた後で」
心愛と千紘は化学室を出て、それぞれ別々の方向へと歩き出す。
心愛は振り返り、千紘の背中を見ながら呟く。
「……そっか、鷹辻君はもう変わってたのね」
心愛の知る千紘は、茉白の事を誰よりも思い、一番近くで守っていた存在だ。
一度フラれたからって、簡単に引き下がると思っていなかった。
心愛の提案も千紘が呑むとは思ってもみなかったため、正直驚いていた。
千紘が茉白を諦めるということは、同時に千紘にとって茉白と同等の存在が現れたと言っても過言ではないのだ。
その人物に心愛は心当たりがある。
(もし、このまま本当にあの子の元に鷹辻君が行くのなら、私は……)
そんな欲望が心愛の中で顔を出す。
だが、その欲を満たした時、心愛と茉白の友情は破綻する。
「……あなたも変わる時なんじゃない?茉白」
心愛は、蹲って泣いている茉白の姿を思い浮かべ、そう口にした。




