第16話①
2年生になって1週間、千紘の生活にも少しずつ変化が訪れる。
茉白とは学校ですれ違う時に挨拶をする程度しか話していない。
当然、弁当も作ってきていない。
そんな千紘の変化に、杉人は少し安堵している様子だ。
悲しそうな顔をする茉白を見ると、千紘も罪悪感を感じるが、それも日に日に薄れてきて、茉白の事を考える時間も減っていた。
そんなある日の今日、千紘にこれまで以上の大きな変化が訪れる。
(……超見られてる)
それは、現代文の授業中の事である。
千紘が板書をしていると、隣の席の男子がじっと千紘を見ていたのだ。
(俺、何かしたか?いやでも、話したことないしな……)
隣の席に座る男子生徒の様子を見ても、怒っているようには見えない。
結局、授業が終わるまで見られ続け、チャイムが鳴る。
先生が教室を出たところで、男子生徒がついに口を開く。
「なあ鷹辻」
男子生徒の声は野太く、男気溢れるオーラが出ている。
「な、なんだ?」
「お前、……蛍峰さんと別れたのか!」
そう男子生徒が叫んだ瞬間、その後ろに座る女子生徒が男子生徒の頭を叩いた。
「ばっ!?何ストレートに聞いてんの!?バカなの!?」
叩かれた男子は頭を抑えながら蹲っている。
「鷹辻君ごめん!こいつデリカシー無くて」
「いや、気にしてないけど……」
普通は気まずくなる質問だろうが、女子生徒が突然叩いたことの方に驚いて、気まずさは皆無だった。
「ほんとごめん!てか、話すの初めてだよね、私は澄吉良青葉、このバカは宍倉 洋史 、よろしくね」
「あ、ああ、よろしく……」
「てか、あんたも謝りなさいよ!」
「った!?わ、分かった!すまなかった!鷹辻!」
洋史は青葉に耳を引っ張られながら、涙目で謝罪を口にする。
「えっと、2人は仲良いんだな」
「いや、別に」
「ああ、マブダチだ」
「……どっちだ?」
2人は同時に真逆の事を口にする。
「腐れ縁ってだけ、このバカはちゃんと見てないと何するか分からないから」
「なんか、母親みたいだな」
「そうだな!青葉は俺の母親みたいなものだ」
そう言いながら洋史は高笑いをする。
そんな2人に圧倒されると同時に、千紘は今まで関わった事の無い感じの2人に新鮮さも感じていた。
「そうだ!今日一緒にお昼食べない?前から話してみたかったんだよねー」
青葉がそんな提案をしてくる。
それに真っ先に乗ったのは千紘ではなく、洋史だった。
「それは名案だな!俺も鷹辻に聞きたい事があるからな!」
「あんたは別に誘ってないけど?」
「ん?俺と青葉はセットみたいなものだろ?」
「勝手に決めんな!」
2人の掛け合いを見て、やはり千紘は思う。
「2人は本当に仲良いんだな」
「仲良くない!」
「マブダチだ!」
またしても、同時に真逆の事を言う2人であった。




