第14話①
千紘の言葉を聞いて、茉白は動くことが出来ない。
全て嘘であって欲しい、名前を呼べば冗談だと言って手を差し伸べてくれる事に期待する。
足音が聞こえなくなったところで茉白は振り返る。
そこに千紘の姿はない。
「……嘘つき」
茉白の目から、一滴の涙が流れる。
「私達、家族じゃなかったの……」
茉白の声は、風の音に掻き消された。
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千紘は最後まで振り返ることは無く、学校を後にする。
緊張と共に、心の中に罪悪感が込み上げてくる。
茉白の今にも泣きだしそうな顔を思い出す。
ずっと一緒に居て、一度も見たことの無い顔だった。
(……これで、良かったんだろうか)
千紘の中に迷いが生まれる。
今からでも引き返して、冗談だと言って今まで通りに戻るのは簡単だ。
千紘の足が止まる。
そして、後ろを振り返ろうとしたその時、
「千紘君?」
千紘を呼ぶ声が聞こえ、振り返る事を踏みとどまる。
声の方を見ると、蓮が立ち止まる千紘を不思議そうに見ていた。
無意識に早く歩いていたのか、いつの間にかいつもの駅前まで来ていたらしい。
「そんなところで立ち止まってどうしたの?」
「……いや、なんでもない」
千紘は止めていた足を進め、蓮の方へと歩いて行く。
目の前まで来たところで立ち止まり、蓮の顔を見る。
「な、何?」
じっと見られた蓮は、恥ずかしさで視線を逸らす。
そんな事もお構い無しに千紘は蓮をじっと見る。
そして気づく、罪悪感と一緒にあったどこか不安な気持ちが消えていることに。
蓮という存在に、茉白と同等の安心感を抱いていることに。
「茉白との16年が、たったの2ヶ月と一緒って……」
同じ安心感なのに、月日の違いがありすぎて、千紘は笑う。
「千紘君、ほんとにどうしたの?」
いつもと明らかに様子の違う千紘を見て、蓮は本気で心配になる。
「いや、なんでもないよ」
そう言って千紘は蓮の頭をぽんっと一撫でだけする。
それは無意識の行動だった。
「……え!?」
「どうした?早く帰ろうぜ」
戸惑う蓮を置いて、千紘は歩き出す。
「……な、何今の」
千紘の突然の行動に、蓮の心臓の音がうるさい程の鼓動を鳴らした。