第1話③
千紘は蓮に簡潔に話した。
幼馴染に片思いしていたこと、告白したがフラれたこと、
「それは、辛いですね」
蓮は黙って聞いた後、眉を下げながら言った。
そんな表情を今日会ったばかりの客にさせてしまったと千紘は焦る。
「いやいや!蓮君がそんな顔することじゃないって!ただ俺が身の程知らずだっただけだから!」
「すみません、つい千紘さんの気持ちになって考えてしまって」
共感しやすい人柄なのか、蓮はそう言う。
そんな蓮を見て、千紘も少し笑顔になる。
その時、千紘の頭に蓮は手を優しく乗せる。
「蓮君?」
蓮の手が、千紘の頭を優しく撫でる。
「頑張ったね。千紘さん」
千紘の頭を撫でながら、蓮は優しい声音で言う。
同性に撫でられて、少し恥ずかしくて、千紘は頬をほんのり染める。
けれど、その声は心地よく、千紘の心を軽くした。
「話したらちょっと楽になった。ありがとう蓮君」
「いえ!私は話を聞いただけですから!」
「それがありがたかったんだよ。そうだ、女の子に送る花だったよね、一緒に考えるよ。話聞いてくれたお礼に無料で」
「いいんですか?ありがとうございます」
その後、千紘はいくつか花を見繕い、蓮にそれを渡す。
「それじゃあ、頑張って」
そう言って千紘は、蓮の背中を押し、店を出た蓮の姿が見えなくなるまで頭を下げた。
「それにしても、告白に花ね。俺もそれくらいすれば良かったかな……」
花を渡しながらの告白を想像するも、自分が成功するビジョンは浮かばなかった。
空を見上げ、体を伸ばす。
ずっと座っていたせいか、体の節々からポキポキと音が鳴る。
「さてと、さっさと頭切り替えて、視野を広げるかな」
千紘はどこかスッキリとした顔をして店の中へと戻った。
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翌朝、いつも通りの自分に千紘は驚いた。
悩みを吐き出すことがこんなにもスッキリするのだと実感する。
いつものように間抜けな欠伸をしながら学校に向かっていると、前方に人を見つける。
そこで、千紘の足が止まった。
普通の人なら千紘とて足を止める事はなかった。
けれど、昨日話した美しい男の子がスカートを履いていたらどうだろうか。
(……視野を広げるとは言ったけども……)
まだ夢の中なのかと自分の頬をつねってみせる。
しかし、当然覚める事は無い。
というか、夢ですらない。
そんな馬鹿な事をしていると、こちらに気づいた彼、いや、彼女が近づいてくる。
千紘の目の前に来たところで彼女の足が止まる。
「おはようございます。千紘さん」
蓮君、否、蓮ちゃんは昨日と同じ笑顔でそう言った。