第12話①
千紘の花屋を後にした蓮は、近くの公園で一人休んでいた。
春の暖かい気候のはずなのに、鳥肌が立つ程体は震えている。
(……なんだったんだろ、あの目)
蓮が女だと知った瞬間、一変した茉白の瞳。
まるで、汚物を見るような冷たい視線、思い出すだけで蓮の体は震える。
そして、茉白の冷たい瞳は、小さな頃の忘れかけた蓮のトラウマを思い出させる。
冷たく、鋭く、殺意を持った瞳を。
(あれは、まるで……)
蓮は茉白と千紘のあの距離感は、フッたフラれたの関係には見えなかった。
それどころか、付き合っている男女のように見え、お似合いだとも思った。
千紘が嘘をついていて、本当は付き合っているんじゃないか、そう錯覚すらさせた。
(……やっと治まった)
体の震えが治まり、蓮は家に帰るため立ち上がる。
歩くスピードをいつもより速めながら。
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茉白の冷たい瞳を、蓮は家に帰った後も思い出す。
考えないようにしても、目を瞑ればあの光景が蘇る。
バンッと窓の音が鳴り、蓮は体を跳ねさせる。
外は風が強く、蓮一人だけの静かな家では、音がよく響く。
(大きな音は、嫌いだ……)
蓮は部屋の隅に三角座りをして目を瞑り耳を手で覆う。
風の音は小さくなったが、瞼の裏にあの冷たい瞳が映る。
茉白の薄氷のような瞳と、昔見た鋭い眼光、指の隙間から微かに聞こえる音が、トラウマをさらに連想させる。
(……早く、終わって……!)
蓮の体が恐怖で震え出す。
今の彼女の姿からは、桜河女子高校の王子とは程遠い。
恐怖のあまり涙が出そうになったその時、
ブーブー
ポケットに入れていたスマホのバイブ音が鳴る。
何度も鳴っている事から、メッセージではなく電話だ。
蓮はスマホを取り出し、画面を見る。
「……!?も、もしもし!?」
『うお!?声でか……』
画面に写し出された千紘の名前を見て、蓮は勢いよく通話に出た。




