第11話②
「あ、あのー……」
来店した蓮は、目に入った茉白の姿に驚くも、ずっと固まって動かない事に戸惑い話しかける。
蓮の声にハッとした茉白は、慌てた様子で応える。
「い、いらっしゃいませ!すみません!ボーッとしちゃって……」
「いや、それはいいですけど……どうしてここに?」
「え?」
「いや、いつもは千紘君が接客してるので……」
蓮は目の前の少女が茉白であると気づいたが、茉白は蓮を知らないので、蓮も知らない体で話を進める。
「あ!千紘のお友達ですか?」
「あ、はい、そうです」
「そうなんですね!千紘にこんなカッコイイお友達が居たなんて知りませんでした!お名前は?」
「えっと、早霧 蓮、です」
茉白のとびきりの明るさに、蓮は若干たじろぎながらも答える。
「蓮君ですか!いつもウチの千紘がお世話になっております」
茉白は蓮に深くお辞儀をして笑顔を向ける。
その笑顔と薄氷のような瞳は、まるで天使のようで、同性の蓮ですら見惚れる程だ。
「お前は俺の母さんかよ」
声が聞こえ、蓮はハッとする。
声の方を見ると、千紘が奥の部屋から顔を出していた。
「悪い早霧、ちょっと外してた」
「いや、構わないよ。ちょっと寄っただけだし」
「ちょっと千紘ー!こんなカッコイイ男の子といつ友達になったのよー!」
茉白が頬を膨らませながら千紘に問い詰める。
「一月くらい前にちょっとな。それと、早霧はイケメンだけど、女の子だからな」
そう千紘が言った瞬間、茉白の動きがピタリと止まる。
茉白の纏う雰囲気が変わったと、蓮は感じた。
「女、の子?」
「そう、気づかないのも無理ないくらいイケメンだけどな」
「……女の子」
「とりあえず、カレーうどんもうすぐできるから、店番頼む。早霧も食ってくか?」
「え?あ、うん!」
そう言って千紘はまた店の奥へと入っていき、階段を登って行った。
また、蓮と茉白の二人になる。
茉白は蓮の方へと向き直る。
「……!?」
瞬間、蓮の背筋が凍った。
天使のようだと感じた茉白の薄氷のような瞳は、雪女のような冷たい瞳に変わっていた。
蓮はその異様な空気に、思わず喉を鳴らす。
「……蓮君、ゆっくりしていってね」
茉白は笑顔で言うが、その目は笑っていなかった。
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「あれ?早霧は?」
あれから5分程経ち、千紘がカレーうどんの入った容器を持って降りてくると、そこには茉白しか居なかった。
「なんか、用事があるからって帰ったよ」
「そうなのか?せっかく作ったのに」
「残念だけど、用事なら仕方ないよ」
茉白は笑ってそう言った。
その笑顔を見て、千紘は何か妙だと感じた。
「……お前、早霧になんかしたか?」
「何かって、何?」
「……いや、なんかこう、嫌がることとか?」
千紘も言葉では説明出来ない。
だが、茉白の笑顔に確かな違和感を感じた。
「何もしてないよ?千紘のお友達なんだから」
「……そうか」
違和感を感じるが、蓮の居ない今、千紘に確かめる方法はない。
「そうだよ。さ、早くお昼にしよ♪」
茉白は天使のような笑顔をしながらそう言った。




