第11話①
春休み、世の中の高校生が勉強を忘れて遊びふけっている中、千紘は朝早起きをして花屋の店番をしていた。
とは言っても、商店街にある小さな花屋に突然大量お客さんが来ることはなく、千紘は暇を持て余していた。
もうすぐ11時を回るという頃、店の自動ドアが開かれる。
「おはよう、千紘」
大きなスーパーの袋を持った茉白が千紘に笑顔で言う。
千紘は茉白の元へと近づき、荷物を受け取る。
袋の中には、様々な食材が入っている。
「わざわざどうしたんだ?」
「さっき千紘のお父さんと会ったからさ、千紘お昼ご飯ないんじゃないかと思って、食材買ってきた」
「……つまり?」
「店番はやるから、お昼ご飯作って?」
「……そんな事だろうと思ったよ」
学校の長期休暇になると、茉白はいつもこうして店番をやる代わりにお昼ご飯を作れと店に訪れる。
もういつからか忘れたくらいには続いている事だ。
千紘は店のエプロンを茉白に渡して、奥の家の方へと進む。
「何食いたいんだ?」
「カレーうどん!」
「なんだそのチョイス」
「朝テレビで見たから!」
「そうかよ」
文句を言いながらも茉白のために千紘は料理をする。
なんだかんだで茉白に甘いのだ。
千紘は、キッチンのある二階へと上がって行った。
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茉白が店番を始めて30分、ようやく一人目のお客さんが訪れた。
いつも千紘の店でお花を買う近所に住む常連さんの主婦である。
「いらっしゃいませー!」
茉白も店番には慣れたもので、完璧な笑顔で対応する。
常連さんは茉白の姿を見て、目を見開く。
「あら?今日は茉白ちゃんなの?」
「はい!千紘は今手が離せないので!」
「そ、そう……」
この常連さんは、茉白が千紘をフッたという噂を耳にしていたため、千紘の店に茉白が居ることに驚いた。
買い物中、終始困惑したまま、店を出て行った。
「ありがとうございました!」
茉白は常連さんの背中が見えなくなるまで笑顔で接客した。
見えなくなると、店の中へと戻り椅子に座って一休みする。
「さっきの人、何であんなに驚いてたんだろ……」
常連さんが困惑していた理由を、茉白は理解していなかった。
しばらく座って休憩していると、自動ドアが開いた。
「いらっしゃいま、せ……」
来店したお客さんを見て、茉白は固まった。
「……あれ?お店合ってる、よね?」
来店した蓮が、そう口にした。