第10話②
「2人だけで盛り上がらないでよ」
蓮は不貞腐れながら千紘達に言う。
その表情を見て、敦子はニンマリと笑みを浮かべて、蓮に擦り寄る。
「そっかそっか〜、ごめんね〜、寂しかったね〜蓮ちゃん♡」
敦子は蓮を大きい胸の中に埋めて、頭を撫で回す。
「ちょ!苦しいから!あと、別に寂しいとかじゃなくて!」
「寂しい訳じゃないなら……あ〜」
敦子は千紘の方をチラリと見て、またニンマリと笑みを浮かべる。
そして、千紘に聞こえないくらいの声で蓮に耳打ちする。
「大丈夫、別に取ったりしないから」
「え?何?何の話?」
「さあ?なんだろうね〜」
そう言いながら、敦子はさっきまで居た駅の方へと歩き始める。
「敦子?」
「ごめん蓮、今日は大事な用事ができたので帰るね〜」
「え!?家に来るんじゃないの?」
「だからごめんって!千紘君、蓮の事お願いね〜」
「え?あ、ああ……」
千紘の返事を聞いた敦子は数回頷き、スキップをしながら帰って行った。
「……嵐みたいな子だな」
「ごめん、騒がしいけど悪い子じゃないの」
「いや、それは分かるよ」
蓮が信頼している友達だからというのもあるが、千紘も好きなゲームの話ができて楽しかった。
蓮をからかったりとお茶目な部分はあるが、千紘の目から見た敦子は、善人以外の何者でもない。
「………」
「なんだ?」
敦子の背中が見えなると、蓮が千紘を黙ってじっと見る。
その目からは、何かの訴えを感じた。
「別に、随分と楽しそうだったなって」
「まあ、好きなゲームの話だったしな」
「あっそ」
蓮はくるりと回れ右して、駅とは逆の自分の家へと歩き出す。
その足取りは妙に早い。
「……なんか怒ってる?」
「は?怒ってないけど?」
そう言う蓮の声音は、いつもより低かった。