第10話①
「いやはや、まさかあなたが蓮の最近のお気にだったとはー」
駅から蓮の家に歩きながら、自転車の鍵を落とした少女こと垣根 敦子が笑って言う。
「いやー、この前は後ろ姿だったもので、気づかなかったなー」
「この前?」
「それはこっちの話なのでお気になさらずー」
敦子が営業マンのような笑顔で言う。
陽気な彼女の勢いに、千紘は少し押される。
「ちょっと敦子!千紘君困ってるでしょ!」
敦子の勢いを落ち着かせるように蓮が割って入る。
「早霧は垣根さんの前だと普通なんだな」
「どういう意味?」
「いや、垣根さんには王子って感じじゃないから」
蓮の学校での姿を見た訳では無いが、少なくとも自分と話す時とは違うだろうと千紘は考えている。
今の蓮は、千紘と話している時と変わらない態度である。
「私達は小学校からの付き合いですからねー、蓮のあんな事やこんな事も知ってますよ。例えば、蓮の小さな胸の右下にはほく─むぐっ!?」
「敦子、ちょっと黙ろうか」
蓮が顔を真っ赤にしながら敦子の口を押さえつける。
敦子の言おうとした事を理解した千紘だが、後が怖いので知らないフリをする。
「えっと、垣根さんも王子みたいなあだ名あるのか?」
話題を変えるために、千紘が少し気になっていた事を聞く。
敦子も容姿が整っていて、陽気な性格なため、女子校で人気者なのではと考えたからだ。
千紘の質問に、敦子は笑って答える。
「いやー私はないない!強いて言うなら……廃人?」
「廃人?」
「そ!私って、かなりのゲーマーでね、その噂が学校中に広まってって感じ?」
「へー、ゲーマーなのか。俺も結構ゲームはするよ」
「そうなの?どんなやつ?」
「最近で言うと……グラスタとか?」
グラスタとは、『グランドスターズ』というゲームの略で、対人系のバトルゲームである。
近年の中高生の間で大人気で、つい先日新作が発売されたばかりなのだ。
「グラスタやってんの!あれはいいよね〜!」
「ああ、あれは正に神ゲーだな」
「わかる〜!動きは滑らかだし、やる事も多くて飽きないんだよね〜」
「そうそう、それに対人ゲームだけど、ストーリーもいいんだよなー」
「いやー本当にそれだよね!」
「あの……二人とも?」
どんどん盛り上がる二人に対し、あまりゲームをやらない蓮は話についていけない。
そんな蓮に気づかず、二人の話はさらに盛り上がる。
「千紘君は何の武器使うの?」
「俺は基本双剣だけど、たまに太刀も使うな」
「そうなの!私も太刀使うんだよねー!あの大振りがたまらなくスカッとするというか」
「分かる!それにあの─」
「ちょっと!」
千紘が喋ろうとしたその時、蓮が痺れを切らして叫ぶ。
千紘と敦子が蓮を見ると、蓮はリスのように頬を膨らましていた。