第9話②
それから少し話を続けた後、それぞれ部活やバイトで解散となり、千紘は一人帰路についていた。
いつも蓮が待っている駅前を通り過ぎようかという時、一人の少女が目に入る。
蓮では無いその少女は、うずくまって何かを探している様子だった。
「あの、何か落し物ですか?」
無視するわけにもいかず、千紘が話しかける。
その声に少女は一瞬驚いた様子を見せる。
「あ、えっと、自転車の鍵を落としてしまって」
「自転車の鍵?」
「はい、私の家はここから何本か先の駅なんですけど、友達の家に寄る予定でここに立ち寄ったんですが、どこかに自転車の鍵を落としてしまって」
「なるほど、探すの手伝いますよ」
「ええ!?いや、悪いですよ!」
「けど、さすがに無視はできないので」
「……なら、お言葉に甘えて」
少女はニコッと笑い、千紘に頭を下げる。
千紘と少女は駅の周りをくまなく探し、10分程経ったところで、少女が声を上げる。
「あ!ありました!」
「そうですか、良かった」
「自販機の下に落ちてました。さっき飲み物買った時に落としたのかも、ほんと、ご迷惑お掛けしました」
「気にしないでください、見つかったなら良かった」
「本当にありがとうございました!」
少女は千紘の手を握り、ブンブンと縦に振り回す。
その勢いに、千紘は少し驚いたが、感謝されることに悪い気はしなかった。
一区切りついたところで、千紘が気になっていたことを聞く。
「あの、その制服って桜河女子のですよね?」
「はい、そうですけど?」
少女を見かけた時から気になっていたこと。
それは、少女の制服が蓮と同じ桜河女子高校のものということだ。
「実は、その学校に友達がいて、それで何となく無視できなかったんです」
「なるほど、そうでしたか!実はいきなり話しかけられて親切な事をしてあわよくば、なんて考えているナンパかと思いましたよー」
あはは、と少女は笑いながら言うが、千紘からすれば笑えない事実である。
「それにしても、友人と同じ高校って理由だけで人助けなんて、お兄さんは中々親切ですね」
「そうですかね?普通だと思いますけど……」
「それを普通だと言える事がすごいんですよ!実は、私の親友にも同じように行動出来る人がいましてねー」
「へー、それは奇遇ですね」
「「あははは」」
千紘と少女がそんな話で笑いあっていると、近くで何かが落ちた音が聞こえる。
二人して、音の方を向くと、
「な、ななななんで二人が一緒に!?」
「蓮、え?」
「早霧、え?」
二人は同時に蓮の名前を呼ぶ。
蓮は青ざめた顔で二人を見ていた。




