第9話①
テストも終わり、今日は終業式、明日からは高校生活で初めての春休みが始まる。
朝学校に着いた千紘は、この1年間を感慨深く振り返っていた。
茉白と同じ高校に入学して、同じクラスになって嬉しかったこと、自分が作る弁当を毎日美味しそうに食べる茉白の姿、杉人とくだらない話をした何気ない日々、心愛と告白成功のために話し合った放課後。
そして、玉砕した告白。
複雑な気持ちではあるものの、今の千紘にとっては良い思い出だ。
「千紘、そろそろ体育館に行こうよー」
教室で耽っていると、茉白が呼びに来る。
振り返った千紘の顔を見て、茉白は綺麗な微笑みを向ける。
薄い氷の膜が張ったような白銀の瞳に千紘の心臓がうるさくなる。
「ああ、今行く」
その音を落ち着かせながら、千紘は茉白と共に体育館へと向かった。
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「終業式、結構長かったね〜」
終業式とホームルームが終わり、千紘と茉白、杉人と心愛の4人で学校の中庭に集まっていた。
中学の頃はよく一緒に居た4人だが、心愛が生徒会に入ったり、杉人がバイトを始めたり、茉白も茶道部に入部したりと時間が合わなくなり、最近は集まる機会が減っていた。
こうして全員が揃って話すのは久しぶりの事だ。
「春休みが終わったら、もう2年生か〜」
「なんだ?蛍峰は先輩になりたくないのか?」
茉白がため息混じりに言った言葉に杉人が聞く。
「そういう訳じゃないけど、クラス替えがあるじゃん?心愛と同じになる可能性があるのは嬉しいけど、千紘達と離れるのは寂しいな〜って」
「お前がそれを言うのか」と言いたげな顔を杉人がしている。
「千紘達は寂しくないの?」
「寂しく無いわけじゃないけど、クラスが変わったって縁が切れる訳じゃないし、そんなにショックとかはないな」
「それはそうだけど、私は心配なんだよ……」
「心配?」
「だって、千紘とクラスが別れたら、千紘の事見れないじゃん?そうなったら、千紘が他の女の子と仲良くしだすかもしれないし……それは嫌だな〜って」
4人のうち、茉白以外の3人がその言葉に反応する。
千紘は慣れているからか少し呆れた様子、心愛はどこか怒りを含んだ表情をしていて、杉人にいたっては引きすぎて人に見せられないような顔をしている。
「千紘、私以外の女の子と仲良くなりすぎないでね?」
そう言う茉白は、本気で不安げな顔をしている。
生まれた時からの付き合いの千紘ですら、茉白が何を考えているのかは完全には理解していない。
だから、茉白の言葉の意味を千紘は考えるのをやめている。
「心配しなくても、俺と話したがる女子なんてそういねえよ」
「……そっか」
千紘は小さく笑いながらそう言った。
未だ残る、心の傷を隠すように。