第8話②
(はぁ、全く敦子は、本当に意地が悪いんだから)
敦子と別れ、一人になった蓮は、電車の中でため息をつく。
頭の中では、ずっと敦子のニヤニヤと面白がる顔が浮かんでいる。
(別に私と千紘君は、ただの友達だし……そう、ただの友達……)
『大事な人、かな?』
「う〜〜〜!」
千紘の言葉が蘇り、蓮は一人項垂れる。
(まさか、あんなふうに思ってくれてたなんて)
千紘の自分に対する気持ちが予想以上で、蓮は嬉しさや恥ずかしさが込み上げてくる。
(千紘君はああ言ってくれたけど、私はどうなんだろ……)
蓮は、自分にとって千紘がどういう存在なのかを考える。
初めはただ寂しそうで、放っておけなくて話しかけた。
癖と言えばいいのか、心配で翌日の朝にわざわざ様子を見にまで行った。
それから、何となく登下校を途中まで一緒にするようになって、連絡先も交換して、休日に出かけて、いつの間にか友人になった。
けれど、蓮が今までほとんど関わることのなかった異性で、
(一緒に居ると、たまに心臓がうるさくなる)
結局、蓮の中でも答えが出ず、千紘が大事な人だと言った気持ちがよく分かった。
そうこう考えているうちに、降りる駅に到着し、蓮は電車を降りる。
改札を出て、家に向かおうとした時、見覚えのある男の子がそこに立っていた。
「よっ、テストお疲れ」
「……わざわざ待ってたの?」
千紘が待っていた事に、蓮は驚く。
千紘が店を出たのは蓮達よりも先で、とっくに帰っているものだと思っていたからだ。
「なんて言うか、何となく早霧と話したいなって思ってさ」
千紘は照れくさそうに頬を掻きながら言う。
その姿に蓮はクスリと笑う。
「仕方ないな〜、そんなに寂しかったの?」
蓮は気を取り直し、からかうように千紘を見る。
「あーくそ、言わなきゃ良かった」
「ふふっ、この私が慰めてあげるよ」
蓮は背伸びをして、千紘の頭を撫でる。
まるで子供あやす様に。
「撫でんな、俺は桜河の女生徒じゃねえんだよ」
「サービスだよ、サービス」
そんなやり取りをしながら、二人はいつものように歩き出す。
(今は、この距離が心地良い)
蓮は千紘の顔を見て、そう思った。