第8話①
「王子、今日はありがとうございました!」
「今日のこと、一生忘れません!」
店を出た蓮と敦子は、クラスメイトと分かれ駅の方角へと歩き出す。
その間、蓮の様子がおかしいと敦子は感じていた。
スイーツ店の中で、ジャケットを被った辺りから明らかに上の空だ。
「蓮、なんかあったの?」
「へ!?な、何が!?」
「いや、明らかに様子が変って言うか、なんだか顔も赤いし、熱でもあんじゃない?」
店の中に居た時も顔が真っ赤になっていたし、時間が経った今も少し顔が赤い。
熱の症状が出ていると敦子は思ったが、
「熱とかじゃなくて、その……ちょっと感情がぐちゃぐちゃというか……」
「感情がぐちゃぐちゃ?」
(ん?そういえば……)
敦子は蓮がジャケットを被った時、二人の男女が入店していた事を思い出す。
制服を見て進学校である春芝高校の生徒であることや、真剣な表情で何やら話し込んでいたため、印象に残っていた。
そして、蓮が後ろの席を時折気にしていた様子も同時に思い出す。
それらの点を繋げて、敦子は一つの答えに辿り着く。
「ふ〜ん、なるほどね〜」
「な、何?」
敦子のニヤリとした笑みに、蓮は嫌な予感がよぎる。
「蓮、さっき店に居た男の子と知り合いでしょ?」
「な!?そ、そんなわけないでしょ!私が春芝高校の生徒とどうやって知り合うのよ!?」
「春芝高校って分かったんだ〜」
「せ、制服を見れば分かるでしょ!」
「でも、確か春芝高校って蓮の家からだと近いよね?知り合う事なんていくらでもできるじゃな〜い?」
「と、とにかく!知り合いでも何でもないから!」
頑なに否定する蓮がもどかしくなり、敦子はかまをかけてみる。
「まあ?確かにあの男の子はないかな?」
「え?」
「だって、目つき悪かったし?なんか冴えないっていうか、パッとしないっていうか、蓮とは釣り合ってないし?それに─」
「……ないし」
蓮が何かを口にしたところで、敦子は言葉を止める。
「そんなことないし、確かに目つきは悪いけど、結構優しいし、意外と気が利くし、それに周りをちゃんと見れてるし……」
「……やっぱ知り合いじゃん」
「ハッ!ち、違うから!そんな感じがしただけだから!」
「はいはい、そういうことにしといてあげる」
「ちょっと、敦子!本当に違うからね!」
蓮の反応を見て、敦子はからかいながら笑う。
心の中では、蓮の中で芽生え始めている気持ちに嬉しさを感じていた。