第6話②
「二人、入れますか?」
聞き覚えのある声が聞こえ、蓮は肩を跳ねさせる。
チラリと入口の方を見ると、千紘が見知らぬ女の子と二人、店員さんに案内されていた。
「なっ!?」
クラスメイトの前で王子キャラを演じている所を見られたくない蓮は、制服のジャケットを頭から被って顔を隠す。
その姿だけならば、王子とはかけ離れている。
「どうしたの?いきなりジャケット被って」
「べ、別に!?ちょっと寒いなーって……」
意味の分からない返答に、敦子は首を傾げている。
けれど、今の蓮にとってはそんな事はどうでもよかった。
「こちらのお席にお座り下さい。ごゆっくり」
「ありがとうございます」
さらに、あろうことか、千紘達は蓮の座るテーブルの真後ろに案内された。
幸い、千紘はまだ蓮に気づいていない。
それでも、名前を呼ばれるのはまずいと思い、蓮はすかさず敦子にメッセージを入れる。
『私が良いって言うまで名前呼ばないで!』
そんな意味不明なメッセージを受け取った敦子だが、蓮の必死な表情を見て、とりあえず黙っておくことを決める。
敦子以外の二人は、まだ席に戻ってくる気配はないので、今は置いておく。
「それで?話って何だ?」
そんな事をしているうちに、千紘が一緒に来た女の子と話し出す。
気になる蓮は、こっそりと相手を覗き込む。
見た目は長い黒髪に眼鏡をした、絵に書いたような優等生だ。
その眼鏡の下にある瞳からは、鋭い眼光が刺していて、美人であることが分かる。
ただ、蓮には茉白でないことはすぐに分かった。
聞いていた特徴と一致しないからだ。
「単刀直入に聞くわ。茉白にフラれたってほんと?」
突然始まったその話に、蓮は耳を傾けずにはいられなかった。