第5話②
蓮と並んで歩き始めて少しした頃、千紘はいつもと違う状況に落ち着かなかった。
それは、すれ違う女の子全員から視線を受ける事である。
もちろん千紘に対してではなく、全て蓮に向けられた視線だ。
「早霧は普段からこんなに注目されてるのか?」
「まあそうだね。もう慣れちゃって何ともないけど」
千紘の問いかけに、蓮は平気な様子で答える。
毎日こんな視線を浴びると考えると、イケメンすぎるのも困りものだと千紘は思った。
「少し、寄っていいかい?」
しばらく歩いたところで、蓮が立ち止まり、図書館までの行き道に来ていたキッチンカーを指さして言う。
見たところサンドイッチを売っているらしく、人も並び始めている。
「別にいいけど、朝ごはん食べてないのか?」
「ちょっと準備に手間取って、すぐ戻るから」
そう言って蓮はキッチンカーの列に並び始めた。
その周囲に居た人達が蓮の姿を見るなり目を輝かせているのが遠目でも分かった。
その光景に千紘は苦笑いし、近くにあったベンチに座ってスマホを触っていると、
「ねぇ、お兄さん」
そう話しかけられ、千紘が顔を上げると、大学生くらいの髪を染めた二人組の女性が千紘を見下ろしていた。
「暇そうだけど、良かったら私達と遊ばない?」
(これは、逆ナン!?)
まさかの逆ナンに驚きながらも一瞬喜ぼうとした千紘だったが、すぐに気づいた。
二人の視線が、チラチラとキッチンカーの方を向いていることに。
(なるほど、お目当てはそっちね)
「すみませんが、連れが居るので」
「そうなの?なら、その子も一緒でいいから!」
千紘がお決まりの断り方をすると、待ってましたと言わんばかり二人は目を輝かせて言ってくる。
あまりの押しの強さに、千紘は少し仰け反る。
「いや、俺らも忙し─」
「そう言わず!ね?ね!」
「いや、あの……」
千紘の言葉を無視して、女性達は止まる気配がない。
こんな経験がない千紘は、どうしていいか分からず、困っていると、
「あの、私の連れに何か?」
サンドイッチを片手に蓮が戻ってきた。
その顔は、ここぞとばかりの営業スマイルだった。
それでも、イケメンのとびきりの笑顔に、女性二人は頬を染める。
「いや、あの、良かったら私達と遊ばないかなって誘ってたところなの、あなたもどう?」
「そうだったんですね。でも、」
蓮は座っている千紘の腕に、サンドイッチを持っていない方の腕を絡ませた。
「今日は私達のデートですので、邪魔しないで貰えます?」
それだけ言い残し、蓮は千紘を引っ張ってその場を去った。
あまりにも手馴れた様子に、千紘は感心した。