第4話②
(まさか、あんな事聞かれるなんて……)
千紘と分かれた後、蓮は電車の中で小さくため息をつく。
あんな事とは、千紘に学校での様子を聞かれた事である。
(あんな姿、他人に見せるもんじゃないからね)
蓮は知り合いに自分の学校での姿を見られたらと思うと身震いする。
そうこうしているうちに、降りる駅に到着し、蓮も電車から降りて学校へ向かう。
そろそろ他の生徒が見えてくるというところで、蓮は一度自分の頬を叩いて気合いを入れる。
校門を過ぎると、周囲の生徒から一斉に熱い視線が注がれる。
その視線を受けながら、蓮は爽やかな笑顔で言う。
「おはよう、麗しきお嬢様達」
蓮の言葉に、黄色い悲鳴が上がった。
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昼休みになった瞬間、千紘は立ち上がる。
茉白の席へと向かい、机の前に立ったところで、その上に弁当箱を一つ置く。
「ほら、今日の分」
「ありがとう!いや〜千紘の弁当がないと午後からの授業に身が入んないんだよね〜」
「調子良いこと言っても何も出ないからな」
「あー!信じてないな〜、本当のことなのに~」
頬を膨らまして見せる茉白を無視して千紘は自分の席へと戻る。
戻ったところで、杉人にじっと見られていた事に気づく。
「なんだ?」
「……お前まで頭おかしくなったのか?」
「は?」
「何普通にフラれた相手に弁当作ってんだ!?何普通に会話してんだ!?」
杉人が千紘に大声で指摘する。
杉人の言うように、フラれた日の翌々日から千紘は以前と同じように茉白にお弁当を持ってきていた。
普通に考えて、フラれた女に弁当を作ってくるような男はいない。
受け取る茉白も変だが、作ってくる千紘もおかしい。
クラスメイトからは、茉白にフラれておかしくなったと悲しい視線を送られている。
「お前、気まずさとかないのかよ!?」
「そう、だな……」
言われて、千紘は改めて考える。
確かに、フラれた翌日は何となく気まずかった。
実際は千紘だけがどこか居心地の悪さを感じていた訳だが、その翌日からは、気まずいという感情は薄くなっていた気がする。
茉白の、当日だろうと翌日だろうと自分が気まずくなければ相手も気まずくないという考えを少し変だと思っていた千紘だが、千紘も千紘で翌々日には気まずさが薄れている。
類は友を呼ぶとはこの事だろうか。
「なんか、千紘もあんまり落ち込んでなさそうだな。案外、恋愛感情なかったんじゃねえか?」
「それは違う。俺は確かに、茉白が好きだったんだ」
杉人の疑念に、千紘は真剣な表情で即答する。
「そ、そうか……」
想像よりも真剣な顔で言った千紘に、杉人は少したじろぐ。
それでも、茉白への恋愛感情だけは、自分が強く抱いていたものだと千紘は確信を持って言えた。