エピローグ
広い処置室には、ベッドが一台だけだった。そこに、呼吸器や点滴やあらゆる器具に繋がれた女性が、一人横たわっている。
防護服姿の医師と看護師が常駐しているようで、由良が案内されると、静かにお辞儀をして、側に控えた。
「これを飲ませたいのですが、彼女のマスクを外してもいいですか?」
由良の問いに医師は頷き、看護師が酸素マスクを外してくれた。
女性の意識は混濁しており、酸素マスクを外すとひっきりなしに咳をする。重症化しているようだ。
由良は、急いで麒麟の涙を女性に飲ませようとした。最初はうまく飲み込んでくれず、苦労したが、何度目かの呼びかけで、やっと口を開いてくれ、飲み下す事が出来た。
涙の宝珠は固いが、口の粘膜に触れると、液体に戻るようになっていた。
しばらくすると、女性の様子が劇的に変化した。顔色が血色を取り戻し、咳も止まる。熱も引いたようで、呼吸が楽そうになった。
「桜子様?」
しばしぼんやりしていた桜子は、執事に名前を呼ばれて、ハッと我に返った。
由良を見て、一つ小首を傾げる。
「あなたは…桜の君?」
「彼の姉で、由良と申します。双子だと知ったのは、ついさっきですけど…。ご気分はいかがですか?」
「ええ、すごくすっきりしているわ。不思議…後遺症が残ると聞いていたのに。あなたが助けてくれたのね?」
「私だけの力じゃありません。神子たちの尽力があったおかげです」
「そのお話、詳しく聞きたいわ」
好奇心いっぱいに話しかけてくる桜子を止めたのは、周りを囲んでいた医師たちだった。
「桜子様、受けて頂きたい検査がございます。お話は。後ほどになさって下さい」
「わかりました」
桜子は頷いて見せ、由良の手を取った。
由良は身構えたが、いつもの静電気によるビリッと感が、今はもう起こらなかった。
「私と友達になってくれる?後日ゆっくりお目にかかりましょう!」
「はい、私でよければ」
こうして、由良に初めての友達が出来た瞬間だった。




