十
由良が病室に向かった頃。三人の神子が巽のいる体育館に合流した。
桜の君が麒麟に変化し、由良が涙を手に入れ病室に向かったことを三人に説明すると、その場に安堵の空気が滲んだ。
「じいさんも、元に戻ったんやな。よかった、これで楓も元に戻せる」
道也が、自分の手の平にパンチを繰り出すと、勝ち誇って言った。
「それはどうだろう?」
桜の君が、水を差す。
「麒麟の涙は万能薬だが、本人が望むこと以外には作用しないのだ。楓とやらが、人間に戻ることを心から望んでいるならば、問題ないが」
「じゃあ、無理矢理飲ませても、無駄っちゅうことか?」
「無駄か…もっと悲惨なことが起こるかも」
「悲惨て、どないな?」
「例えば、また違う動物に変化するとか」
「んなアホな!」
がっくりと肩を落とす道也に、桜の君がポンポンと背中を叩いた。
「まあ、じっくり説得するしか無いかな。猶予は三日だが」
「まだわからないことがあるのですが、聞いてもいいですか?」
千隼の質問に、桜の君は快諾し、頷いた。
「神子は子供が出来ると死ぬという、血の呪いについて、何か知っていることはありますか?」
「ああ、それは、勾玉の副作用だね。今はその呪いからは解放されているはずだよ」
その言葉に、四神一同皆ほっとした表情を浮かべる。
「誰や?呪いはまだ…みたいなこと言うたのは」
道也が千隼の脇腹を肘で打つ。千隼は、つんと澄まし顔でとぼけて見せた。
しかし、暗い表情になって、桜の君が言った。
「ただし、私も含めてだろうけど、いつの時代も神子は短命だった。それは肝に銘じておいてくれ」
「それはなぜですか?」
圭斗が驚いて質問する。
「神通力を扱えるようになるからさ。神様が万物に愛されている証拠だね。でも、神通力は無尽蔵なわけじゃない。寿命を削って繰り出される技だ。君たちは、いざという時、技を使わずにいられるかい?」
自分以外にも命の危機に晒されたときに、黙って見ていられるか。それは、自分以外だからこそ難しい事柄だ。
「私の呼び名『桜の君』というのは、桜子さんの婚約者という意味がある。それ以外には求められていないということだから…使うしかないよね、神通力」
ちょっと皮肉気味な口調だった。
「桜子さんて、かの令嬢のことか。そういや、どういった立場の人や?」
道也が尋ねる。
「桜子さんは、皇族の方だよ。次期天皇候補」
話を元に戻そうか、と桜の君は続けた。
「神獣への変容も、技の一種だから、気をつけてね。あと、怒りに身を任せることは、天変地異を引き起こして身を滅ぼすから、やめた方がいい。なんなら、もう一度勾玉で封印することも可能だけど…誰も望んでいないみたいだね」
桜の君は、一つため息をついて、間を取る。
「とにかく、人として生まれ、生きて行こうと決めた私達なのだ。何事にもめげたりしないこと。急がば回れだ」
「はい」
四人の返事が、綺麗に揃った。




