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プロローグ
一膳の箸が皿の上に落ちて、派手な音を立てる。
「いかがなさいました?桜子様」
テーブルに肘を付き、空いた手で額をおさえている女性に、そばに控えていた執事が近づいて来て声をかけた。
「近づかないでください。もしかしたら、感染したのかもしれません」
桜子と呼ばれた女性が、弱々しく応える。
「えっ!」
「味も匂いも感じないの。それに、今朝から熱っぽくて…」
執事は少し怯んだ様子で、それでも桜子に手を差し伸べる。
「急ぎ検査の手配を致します。それまで、お部屋でお休みください」
「…ありがとうございます」
桜子は、迷った末に執事の手を取り、淡く微笑んだ。