8
新型機の性能は予想以上に良かった。でも思っていた以上にじゃじゃ馬だった。新型機と言っても試作機なのだ。万人向けの設計じゃない。こんなの乗りこなせる飛行機乗りなんてそうはいないとハラは思う。
「上昇する」僚機に言う。
「了解」返事がくる。
ハラは飛行機を上昇させる。天候は嵐。世界は真っ暗でつよい雨が降り続けている。
「僚機がやられた。もう二機も撃墜されてる」僚機が言う。
向こう側にエースパイロットがいる。相手は誰だろう? もうこの辺りには有名な飛行機乗りはいないはずなのに。ハラは飛行機の速度を上げる。しかしすぐに僚機が付いてこられなくなる。飛行機の性能と飛行機乗りとしての腕が違いすぎる。ハラは速度を少し落として僚機と一緒に隊列を組んで飛行する。
空を飛ぶには勇気がいる。
そんな(優しくて、年老いた)先生の言葉を思い出す。ハラは飛行機の運転が乱暴すぎる。もっと飛行機のことを考えて空を飛んでほしい。(ほほを膨らませて、怒った顔をしている)メルの言葉を思い出す。
嵐の中に敵機の反応がある。
その動きと速度からしてエース機だ。おそらく相手も私のことを認識している。
「前方の敵機は私がやる。僚機は周囲に残っている敵機の相手を頼む」ハラが言った。
「了解」
返事と共に僚機がハラの飛行機から離れていく。そのすぐあとに前方に敵機の姿が一機見えるようになった。